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あの手この手でねじかねばばにいじめられる小しお。(『塩売文太物語』より。国立国会図書館蔵)

I:『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下『べらぼう』)の物語前半から花の井→瀬川(瀬以/演・小芝風花)が折に触れて熟読する様子が描かれてきたのが『塩売文太物語』という赤本です。第14回のクライマックスにも登場しました。これもまた『初めての大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺」~歴史おもしろBOOK』などの受け売りになりますが、あらすじを簡略に紹介しましょう。

主人公は、塩売りを生業にする文太夫婦の娘「小しお」。両親の愛情たっぷりに育てられた小しおは、気立ての良い心優しい娘に成長していました。

「小しお」の評判をききつけて、「小しお」を嫁にもらいたいといってきたのが、文太夫妻のつくった「塩」などを買い付けていた「浜の大宮司」。「浜の大宮司」は、「ねじかねばば」というちょっといじわるなおばあさんを「小しお」のもとに遣わして、嫁に来るように説得を試みます。

そのとき、実は「小しお」は、都から文太のもとに出入りしていた若い商人の「助八」と「和歌」という共通の趣味を通じて、深い仲になっていました。そのため、「浜の大宮司」の要請を受け入れるわけにはいかなかったのです。

「ねじかねばば」は、必死に「小しお」を説得しますが、それでも嫁入りを拒否する「小しお」は、「ねじかねばば」に火にあぶられるなどの荒行を受けても決意は変わりませんでした。

そんなこんなで、「小しお」は「大宮司」が大切に育てていて、文太夫婦に世話を頼んでいたオシドリをわざと逃がしてしまいます。好きな「助八」と離れ離れになっていることと、オシドリの夫婦の片割れが囚われて2羽が会えないことを自身の身と重ねたのです。

「大宮司」が大切にしていたオシドリを逃がしたことで、さらにいじめられると考えた「小しお」は、「助八」に助けを求める手紙を出します。そして、「助八」は「小しお」を助けるためにやってきて、「小しお」を都に連れて帰るのです。

「小しお」が「助八」と逃げたことを怒った「大宮司」は、代官所に命じて文太夫婦を捕えます。なんという理不尽。ところが、代官所の役人たちは文太夫婦にやさしく接し、文太夫婦を逃してくれました。実は、その役人たちの正体がかつて「小しお」によって自由な身になった夫婦のオシドリだったのです。

オシドリの「恩返し」で自由な身になった文太夫婦は、「助八」と「小しお」に会いにいくために都に上ります。

都にのぼった文太夫婦を迎えたのは、貴族の有栖中将とその妻におさまっていた「小しお」でした。実は「商人助八」は、和歌好きが嵩じて、商人の姿をしながら和歌に詠まれた名所を訪ね歩いていた貴族だったというのです。

A:浦島太郎に助けられた亀だったり、鶴の恩返しのような「動物による恩返し」に加えて、商人だった助八が実は都の貴族だったという後年の「水戸黄門的」な描写もあり、「the昔話」のようなのが『塩売文太物語』です。

I:私は、最後は愛する「助八=有栖中将」と結ばれて幸せになるというくだりが、瀬川の心を捉えたのかなと思います。だから本当は蔦重(演・横浜流星)と結ばれたかったんだろうなと切なくなりました。もちろん幼いころに蔦重に手渡された本だっていうのもあるのでしょうが。

A:蔦重と瀬川の「別れ」の解釈は『塩売文太物語』のストーリーを知っているか否かでずいぶん変わってきますね。私も、瀬川は苦難の末に小しおと助八のように幸せに暮らしたかったんだろうなと感じています。

I:でも、瀬以は蔦重のもとを去っていく決断をしました。なぜ、どうして? というのは、視聴者それぞれ解釈が違ってくるのでしょう。それはそれでいいと思います。これこそ本当の「おさらばえ」でしたね。本当の愛とは何かと考えさせられました。

蔦重(演・横浜流星)との思い出の詰まった『塩売文太物語』を置いて去る瀬川(瀬以/演・小芝風花)。(C)NHK

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ~べらぼう~蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。同書には、『娼妃地理記』、「辞闘戦新根(ことばたたかいあたらいいのね)」も掲載。「とんだ茶釜」「大木の切り口太いの根」「鯛の味噌吸」のキャラクターも掲載。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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