小芝風花さん演じる瀬川花魁の花嫁姿。(C)NHK

ライターI(以下I):蔦重(演・横浜流星)の幼馴染にして、この時期随一の花魁である五代目瀬川(以下瀬川、演・小芝風花)の身請けが正式に決まったタイミングで、小芝風花さんの取材会が開かれました。当欄からは、私が代表して参加しています。

編集者A(以下A):小芝さんといえば、2019年のNHKドラマ『トクサツガガガ』が強く印象に残っています。このドラマは、隠れ特撮オタクOLを小芝風花さんが演じたのですが、この時演じた「特撮オタク」のイメージが残っていたので、当初は「花魁の役、大丈夫?」と思っていました。ところがそれは完全に杞憂でした。むしろ小芝さんの飛躍とプロフェッショナルぶりに心打たれるという展開になりました。

I:『トクサツガガガ』に興味のある方はNHKオンデマンドで確認してほしいですね。「俳優小芝風花の飛躍」を確認できるかと思います。さて、それでは、小芝さんのお話をご紹介します。まずは、大河ドラマ出演のオファーがあった時、祖父母孝行ができたことが嬉しかったという話をしてくれました。

大河ドラマに出ることは目標のひとつでした。祖父母は大河ドラマが好きなので、ふたりが元気なうちに、私が大河ドラマに出演しているところを見て欲しいと思っていました。出演情報が解禁されてすぐ、祖父母に連絡して、大河に出るよっていったら、本当に喜んでくれたので、ひとつ、おじいちゃん、おばあちゃん孝行ができた喜びがありますね。

I:喜んでくれた祖父母ですが、オンエア後の反応がなかったという話題も話してくれました。

楽しみにしてくれていたけど、最初の5、6回くらいまで、全然メールをくれなくて。母とも、こういう役柄だからおじいちゃんとおばあちゃんは嫌なのかなって話していたんですけど、どうも間違えて私のことをブロックしていたみたいで。解除してからは毎回、見たよーって連絡くれます。

A:いい話ですね。大河ドラマに出演される俳優の方々が、両親や祖父母と大河ドラマを楽しんでいた、というケースって多いですよね。小芝さんの場合は、祖父母が大河ドラマ好きで、出演できてうれしいということでした。聞いているだけでなんだかウルウルしてきますね。

I:さて、次に「ご自分と瀬川を比較してどうか」という質問に対して、小芝さんはこんなふうに答えてくれました。

時代が違いすぎて、境遇も環境も全く違うので、比べようもないですね。そのことは、この役を演じるにあたって、ものすごく意識しました。私はどちらかというと年よりも若く見られるのですが、今回の役では、ちょっとした仕草だったり目線だったりというのを特に意識しました。以前お仕事をご一緒させて頂いたことのあるメイクさんが今回担当してくださって、「風花ちゃんをどうやっておとなっぽく、色っぽく作ったらいいんだ」って、すごく考えてくださっていました。所作の先生にも本当に細かく質問したりしていました。ちょっとでも不安があったら、すぐ先生のところにいって、こういう立ち方や所作はやってもいいことですか? ダメなことですか? って確認を取ったりしていました。

A:第9回では蔦重に身請けを止められるシーンがありました。小芝さんにとって、このシーンはご自身で印象に残る場面だったようです。

九郎助稲荷で蔦重と話すシーンは印象に残っています。ふだん、蔦重と話をする時は砕けた感じなんですけど、鳥山検校のことを素敵な方といって褒める時は、全部、廓言葉になっているんです。だからきっと本心を隠しながらあの会話をしていて。でも、蔦重が鳥山検校様の悪口みたいなことをいった時には、「蔦重だってわっちに吸い付くヒルだ」って言い返しています。ふだんは辛い様子を見せない瀬川が、この仕事がどれだけ大変かっていうのを初めて吐き出すところなんですね。今までどれだけ耐えてきたのかっていうことを初めて言うんです。

I:この場面は、手に汗握るという表現がぴったりの熱いシーンでした。小芝さんの話は続きます。

そしたら、その後、蔦重の口からまさかの「俺が幸せにしたい」って。まさかこの人の口からこんな言葉が出るなんて、瀬川は思ってもみなかったわけですが、そこであんまり甘いモードにはならないところが、このふたりの関係性っぽくて好きですね。台本にはなかったんですけど、「心変わりしないだろうね」っていうセリフの時に、蔦重の胸ぐらをぐっと掴んでいいですか、って監督に確認して、やらせてもらいました。蔦重と瀬川の今までの関係性的に、この方があっていると思って。

A:あの胸ぐらを掴む演出は、小芝さんの発案だったんですね。ここけっこう重要なポイントで、演者が自由に演出陣に自分の考えを提案できる雰囲気が醸成されているということです。おそらくいろいろなシーンで同様なことが行なわれているのでしょう。これは楽しみですね。さて、思い入れのあるシーンに続いて、特に思い出深い、印象に残っている台詞についても語ってくれました。

第8回で、蔦重に別の人と幸せになって欲しいっていわれた時の、「ばからしゅうありんす」ってという言葉はすごく印象に残っています。この恋心が報われるとは思っていないけど、瀬川になってからは本当にお勤めがすごくしんどくて、それで蔦重が作る細見が売れるようにとか、でも瀬川というブランドを汚さないようにとか、すごく頑張った揚句、いわれたセリフがあれだったから、もう本当に全部がばからしくなったというか、何やってるんだろう自分、っていうか、人間的にもすごく苦しいものがあったので、あのセリフは印象に残っています。

I:これは「わかる!」と思った女性視聴者が多かったのではないでしょうか。そして、「蔦重め!」「鈍感すぎ!」とも。後になってふたりの心がひとつになったからよかったものの、こんなことを言われて、挙句の果てに女性のための婚活本ともいえる『女重宝記』まで手渡されて、怒りを通り越して呆れるというか、情けないというか。

A:何もかも嫌になって、ばからしい、と思うのも無理はないということですね。吉原の掟を熟知しているからこそ、その悲しみはより一層深かったことだろうと思います。

鈍感過ぎる蔦重(演・横浜流星)に思わず「ばからしゅうありんす」といった瀬川。(C)NHK

瀬川の心の奥底に触れたいなら『塩売文太物語』

I:そして、第3回あたりから折に触れて彼女が手にとっている本があります。劇中であまり説明されないのですが、これは『塩売文太物語』といって、子ども向けの赤本になります。板元は鱗形屋で、主人公は小しおという女性。心清く生きていれば幸せになれるという愛の物語です。小しおは、最後は本当に好きな男性(助八)と結ばれてハッピーエンドで終わるというストーリー。善人が主人公の物語で、必ずといっていいほど登場する底意地の悪い「ねじかねばば」がほうび目当てに小しおに理不尽かつひどいことをするという昭和の時代の「大映ドラマ」のような展開の本ですね。

A:瀬川の「愛読書」である『塩売文太物語』のストーリーを把握していると、瀬川の心情がより身近に、切なく感じてしまうと思うのですが、小芝さんは『塩売文太物語』についても語ってくれました。

現代語訳されているものを読みました。籠の中の鳥っていう表現があるように、瀬川は、やっぱり本当に吉原の中でしか生きることしかできなくて、唯一、それ以外の世界に行けるのが、蔦重の追っている夢を応援することだったり、本の中の世界しかなくて、だから本当に夢物語だけど、自分がこうなれるって思っているわけではないんだけど、本の世界に没頭し、そして救われているんですよね。それこそ朝顔姉さんが言っていた、真のことがわからないのならできるだけ楽しいことを考えようという言葉じゃないですけど、瀬川は物語を心の拠り所にしていたんだろうなっていうのはすごく思います。

I:小しおが愛していた助八は、実は都の有栖中将という貴族で、小しおは幸せに暮らすことになるわけです。瀬川もきっとそんな風に、愛する人に添い遂げる暮らしを望んでいたのでしょうね。

蔦重のはなむけに

A:小芝さんは、『べらぼう』で頻出している「言葉遊び」についても言及してくれました。こうした「言葉遊び」はフィクションではなく、当時の人々の定番であったようです。

蔦重はよく「ありがた茄子」とかいった言葉をポンポンと言うことが多くて、瀬川ともそういう掛け合いみたいなことを普段からしていたと思うんですけど、鳥山検校が「遅かりし由良助」と言って、瀬川がそれに対して「御生害に間に合いんした」と言って返していたのも、日ごろから蔦重とそういうやりとりをしていたからすっと出てきたんだと思うんですよね。だからこそ、蔦重は自分以外の、しかも客である男とああいうやりとりを瀬川がしているのを目撃して、もやっとしたのだと思います。

I:そして小芝さんは第10回の終盤で、蔦重がつくった『青楼美人合姿鏡』についても言及してくれています。

瀬川の姿が載っている本は初めてで、もう最初で最後なんですよね。花魁としてはお客さんの前ではすごく華やかな姿だけど、ここに描かれている瀬川はそうじゃない、本当に日常の姿なんですよね。おしゃべりしている花魁もいれば、私(瀬川)は本を読んでいて、その何気ない日常は、蔦重だからこそ描けた姿だと思うんです。お客さんとして吉原に来たら、絶対見られない姿です。瀬川はよく本を読むんですが、悲しいことがたくさんある中でも、本の中の世界だけは自由でいられた。その姿を蔦重が本の絵にしてくれたっていうのがすごく嬉しかったですね。

A:人気女郎の「日常生活」を描くとは、吉原で育った蔦重ならではのアイディアですよね。それを瀬川の身請けのはなむけにするわけです。

I:鳥山検校に嫁ぐ瀬川の花嫁衣装での花魁道中、綺麗でしたね。

花嫁衣装が 一番重くて、本当に布団だったんですよね。セットの中で撮っているので、暑くて、でも汗をかくとお白いが取れちゃうので、スタッフのみなさんがが扇風機だったり、保冷剤をあててくれたりして、すごくすごくケアしてもらいながら撮影しました。身請けされて大門を堂々と出ていくって、花魁たちにとっては数少ない希望なんですけど、瀬川の場合は、もう仕事をしなくて良くなるという反面、ここを出たら二度と蔦重には会えないから、すごく複雑な心境なんですよね。本来嬉しいはずのものが、お別れの道中になってしまって。だから最後、「おさらばえ」って言って振り返った後で、大門の近くに蔦重がいて、でもその蔦重の目を見られなくて。蔦重を見てしまったら、もう大門を出ていけなくなりそうだったので、目を合せず、各々別の道を歩むってことで。撮影中、最初は蔦重の目を見たんですけど、すれ違いざまに、ここから出たら自分の蔦重への思いに蓋をして、検校の妻として生きていかなきゃいけないっていう覚悟でした。

A:小芝さんに瀬川がのりうつっているかのような思い入れと、それが反映された演技でした。あの、目を合せない方がいいというのも、小芝さんが瀬川に感情移入して思い至った演技だったそうです。

I:なんだか「瀬川ロス」になりそうですが、瀬川は今後幸せになれるのでしょうか。

A:幸せになって欲しいですね。

ふたりの運命は……。(C)NHK

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ べらぼう 蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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