火花バチバチの若木屋(左/演・本宮泰風)と大文字屋(右/演・伊藤淳史)。(C)NHK

ライターI(以下I):さて、『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下『べらぼう』)第12回です。『べらぼう』は蔦屋重三郎(演・横浜流星)の「吉原パート」と田沼意次(演・渡辺謙)の「江戸城パート」を軸にして展開されています。もちろん「吉原パート」の方がメインなのですが、田沼意次と田安賢丸(後の松平定信/演・寺田心)の政争の行方も、蔦重の商売にも関係してくるので見逃せません。

編集者A(以下A):田沼意次と松平定信の「政争」が大河ドラマで描かれるのは初めてです。「金権政治の権化」のようなレッテルを張られてきた田沼意次と寛政の改革を行なったと教科書にも記述される松平定信、ひと昔前であれば、松平定信が「善」で田沼が「悪」ということになったと思われます。

I:ところが、近年では、田沼意次の再評価がなされていて、どうもこれまでいわれてきたような「賄賂、賄賂」の政治家ではなく、改革に挑んだ政治家だったという意見も大きくなっています。

A:田沼意次の領地は現在の静岡県牧之原市となりますが、長らく田沼意次の功績を語ることが憚られたといいます。城跡に意次の銅像が立てられたのは、なんと令和になってから。

I:田沼失脚後に相良城は徹底的に破却されたそうですね。激しい「憎悪」があったように思えます。なぜそこまでされなければならなかったのか。田沼意次の施策がなぜ「改革」とされなかったのか。不思議でしょうがありません。

A:それだけに『べらぼう』で田沼意次の行く末がどう描かれるのか――。大河ドラマ史に刻まれる重要な側面ですので、要注目です。そして、田沼意次の行く末が、蔦重らにも多大な影響を及ぼすところは『べらぼう』最大の見せ場になるはずです。

江戸留守居役と作家の使い分け

秋田藩の外交官的な役職だった平沢常富(演・尾美としのり)。(C)NHK

I:さて、劇中では、秋田(久保田)藩江戸留守居役の平沢常富(演・尾美としのり)が登場しました。秋田藩佐竹家は、鎌倉時代から戦国時代まで常陸国を本拠にしていましたが、関ヶ原合戦の時に徳川方につかずに、常陸から出羽に転封になった藩ですね。現在の秋田県の佐竹敬久知事(4期、4月6日投票の知事選には立候補せず)は、本流ではないですが、佐竹一族の「佐竹北家」ご出身ですね。

A:その平沢常富と蔦重が吉原でやり取りを交わすわけですが、実は妓楼の親父たちにとって「平沢様」はお馴染みだったということに蔦重は驚かされます。それもそのはず、平沢は「宝暦の色男」を自称していたという吉原通。宝暦年間は1751年から1764年ですから、平沢常富が10代から20代の時代になります。そのころから吉原の馴染みっていうわけですから地方大名の江戸詰め藩士はそんなに忙しくなかったのでしょう。

I:そうですよね。忙しくないですよね。本業が忙しかったら、本なんか書けるわけがないですよね。

A:ということで、平賀源内(演・安田顕)は蔦重が企画する本の序文に「朋誠堂喜三二(ほうせいどうきさんじ)」を推薦するのですが、蔦重はさっきまでやり取りしていた秋田藩の江戸留守居役が作家の喜三二さんということにびっくりさせられます。

I:朋誠堂喜三二と秋田藩江戸留守居役平沢常富をうまいこと使いわけていたということですよね。各藩の留守居役は「渉外役」のようなもので、妓楼などで「情報交換」していたようですから、妓楼主と馴染みになるわけです。

A:朋誠堂喜三二は、江戸留守居役平沢常富との「二足の草鞋」という活動をしていたのですが、複数の顔を持つというのも本人としては、楽しかったのでしょう。きっと江戸詰めの藩士で同様の「副業」をしていた人は他にもけっこういたと思いますよ。国文学研究資料館の松原哲子准教授の研究によると、「四方の赤、鯛の味噌吸(みそず)」などの「地口」を考案したのは、「津軽のおぢい」とあだ名された弘前藩のあまり身分の高いとは思われない人物の作だというのです。

I:江戸の出版界には地方大名の江戸詰めの人たちが関わっていたんですね。地口といえば、第11回の後半に鱗形屋の息子長兵衛(演・三浦獠太)と勝川春章(演・前野朋哉)が、「大木の切り口太いの根」と口ずさみながら、絵を描いていました。そこには擬人化された大木の「根」がいました。当時の流行語を擬人化するという斬新な草双紙『辞闘戦新根(ことばたたかいあたらしいのね)』の場面ですね。『辞闘戦新根』がいかにおもしろいかも、松原先生に教えていただいて、読んでほんとに爆笑しましたよ。

A:これも松原先生から教えてもらった話ですが、「大木の切り口太いの根」の「根」の箇所は構成の「いいね」「そうだね」などの「ね」のルーツという説もあるそうです。

吉原の祭、江戸の祭り。次ページに続きます

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