藤原興風(ふじわらのおきかぜ、生没年不明)は、平安時代前期の歌人で、三十六歌仙の一人として名を残します。藤原浜成のひ孫で、藤原京家に属し、父は藤原道成です。正六位上や下総権大掾(しもうさのごんのだいじょう)などの地方官を務め、官位は高くありませんでしたが、『古今和歌集』に38首が収められるなど、歌人として高い評価を受けました。

宇多天皇の「亭子院歌合(ていじいんうたあわせ)」や「寛平御時后宮歌合(かんぴょうのおおんときのきさいのみやうたあわせ)」に参加し、同時代の紀貫之や凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)も一目置く存在でした。また、琴や琵琶、笛といった管絃に秀で、宇多院の琴の師としても名高く、『興風集』という家集を遺しました。彼の活躍は宮廷文化や和歌の発展に大きく寄与しました。

藤原興風『百人一首画帖』より
(提供:嵯峨嵐山文華館)

目次
藤原興風の百人一首「誰をかも~」の全文と現代語訳
藤原興風が詠んだ有名な和歌は?
藤原興風、ゆかりの地
最後に

藤原興風の百人一首「誰をかも~」の全文と現代語訳

誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔の 友ならなくに

【現代語訳】
友人は皆亡くなっていく。いったい誰を親しい友人にしようか。長寿の高砂の松も昔からの友人ではないのだから。

『小倉百人一首』34番、『古今和歌集』909番に収められています。この歌は、年老いて友を失った寂しさを切実に詠んだ秀作です。「誰をかも知る人にせむ」という出だしには、深い孤独感が滲み出ています。

藤原興風は74歳でこの歌を詠んだと伝えられます。平安時代、40歳で老境とされた時代に、これほどの高齢まで生きた興風の心情が痛いほど伝わってきます。

高砂の松は、相生(あいおい)の松として知られ、夫婦円満や長寿の象徴でした。しかし、その松でさえ今は心を通わせる友とはなり得ないと嘆く様子には、長寿のありがたみよりも、古くからの親しい人々を次々と失っていく老いの悲しみが込められています。

めでたいはずの長寿の象徴である松を逆説的に用いることで、孤独感がより一層際立つ秀逸な一首となっています。

藤原興風『百人一首画帖』より
(提供:嵯峨嵐山文華館)

藤原興風が詠んだ有名な和歌は?

三十六歌仙にも選ばれた藤原興風の有名な和歌を紹介します。

きみ恋ふる 涙のとこに みちぬれば みをつくしとぞ 我はなりぬる

【現代語訳】
あなたに恋い焦がれて流す涙が寝床に満ちて海のようになりましたので、我が身は常に波に濡れる澪標(みおつくし)となり、身を滅ぼすことになってしまいました。

『古今和歌集』567番に収められています。恋焦がれて流す涙が寝床を満たし、まるで海のようになってしまう。そのような状況の中で、自分は澪標(みおつくし)のように、波にさらされる哀れな存在となり、やがて身を滅ぼしてしまうという切ない心情を表現しています。「みをつくし」は水路の目印である「澪標」と「身を尽くし」を掛けた技巧的な言葉で、この表現は多くの歌人に好まれたものです。

藤原興風、ゆかりの地

藤原興風のゆかりの地を紹介します。

高砂神社

兵庫県高砂市の高砂神社は、藤原興風の歌にも詠まれた「高砂の松」ゆかりの地として知られています。境内には、創建当時から生えていると伝わる「相生の松」があり、これは雌雄2本の松が根元で一つになっているように見える霊木です。

松は古来より長寿の象徴とされ、特にこの「相生の松」は、寄り添うように立つ姿から、縁結び、夫婦和合、そして長寿の象徴として信仰を集めています。興風の歌に込められた孤独感とは対照的に、ここでは人と人との繋がり、永遠の絆を願う人々の思いが、この松に託されているのです。

最後に

藤原興風の歌は、人生の喜びや悲しみを率直に表現したところに魅力があります。百人一首に選ばれた歌は、長寿を祝うはずの「高砂の松」を詠み込みながら、実は老いの孤独を歌ったもの。人生の儚さ、そして過ぎ去っていくものの尊さを改めて感じさせてくれます。彼の歌に触れることで、私たちもまた、人生の深淵をのぞき込むことができるのではないでしょうか。

※表記の年代と出来事には、諸説あります。

引用・参考図書/
『日本大百科全書』(小学館)
『全文全訳古語辞典』(小学館)
『原色小倉百人一首』(文英堂)

アイキャッチ画像/『百人一首かるた』(提供:嵯峨嵐山文華館)

●執筆/武田さゆり

武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

●協力/嵯峨嵐山文華館

百人一首が生まれた小倉山を背にし、古来景勝地であった嵯峨嵐山に立地するミュージアム。百人一首の歴史を学べる常設展と、年に4回、日本画を中心にした企画展を開催しています。120畳の広々とした畳ギャラリーから眺める、大堰川に臨む景色はまさに日本画の世界のようです。
HP:https://www.samac.jp

 

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