国税庁の統計によりますと、平成30年中に亡くなられた方(被相続人数)は約5万人です。そのうち、相続税の課税対象となった被相続人数は約3,500人。約7%の方が相続申告の提出をしていることになります。生前にしっかりと対策をしていれば、相続税の納税資金に悩むことはありませんが、相続が発生した後に取れる対策には限りがあります。まずは、相続税がいくら発生するのかを試算しておくことが重要です。

そこで今回は、相続の生前対策を行う日本クレアス税理士法人の税理士中川義敬が、長年にわたる相続税申告のサポートを通じて得た幅広い知識や経験に基づき、相続税の税率と算出方法ついてご説明することで、相続税の試算にお役立ていただきたいと思います。

目次
相続税の税率について
相続税の算出手順
相続税を算出する際の注意点
相続税を減らす方法例
まとめ

相続税の税率について

相続税の税率は累進課税といい、相続財産が多ければ多いほど税率が上昇していくため、それに応じて支払う相続税も高額になっていきます。相続税率は次の通りです。

<相続税の速算表>

法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
1,000万円以下10%なし
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

相続税の算出手順

相続税は、相続税の対象となる財産の合計額から「基礎控除額」を差し引いた、残りの金額に対して発生します。「基礎控除額」とは、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算される金額。例えば、法定相続人が2人の相続であれば、基礎控除額は4,200万円(3,000万円+600万円×2人)になります。

この場合、相続税の対象になる財産の合計額が4,200万円以下であれば、相続税はかかりません。つまり、相続税が発生するのは、基礎控除額よりも相続税の対象となる財産の合計額が多い場合です。相続税の対象になる財産のことを「各相続人の課税価格」といい、その合計額から基礎控除額を差し引いた残額のことを「課税遺産総額」といいます。

相続税の計算方法

それでは「各相続人の課税価格」から、どのように相続税が計算されるのかを事例で確認していきましょう。相続税の計算手順は次の通りです。

<相続税の計算手順>

1.各相続人の「課税価格の合計額」を計算する。
2.課税価格の合計額から基礎控除額を差し引き「課税遺産総額」を算出する。
3.課税遺産総額を法定相続分で分ける。
4.法定相続分ごとに相続税を計算する。
5.相続税額を合計する。
6.相続税額合計を実際の相続分に応じて各相続人に配分する。
7.税額控除などを行い、各相続人の納付税額を計算する。

この手順を使って、次の例で相続税を実際に計算してみましょう。

【例】
被相続人の妻・長男(22歳)が、それぞれ次のように被相続人の財産を相続した(法定相続人も、この2人とします)。
<妻が相続した財産>
・不動産 5,000万円
・現金 5,000万円
<長男が相続した財産>
・現金 4,200万円


1.各相続人の「課税価格の合計額」を計算する。
<妻の課税価格>
不動産5,000万円+現金5,000万円=1億円
<長男の課税価格>
4,200万円
<各相続人の課税価格の合計>
妻1億円+長男4,200万円=1億4,200万円

2.課税価格の合計額から基礎控除額を差し引き「課税遺産総額」を算出する。
法定相続人が2人のため、基礎控除額は以下となります。
3,000万円+(600万円×2人)=4,200万円
したがって課税遺産総額は、1億円(1億4,200万円-4,200万円)です。

3.課税遺産総額を法定相続分で分ける。
妻、長男の法定相続分は次の通りです。
・妻…2分の1
・長男…2分の1
1億円を法定相続分に応じて分けると、次のようになります。
・妻  5,000万円
・長男 5,000万円

4.法定相続分ごとに相続税を計算する。
法定相続分ごとに相続税の計算を行います。相続税率は冒頭にご説明した速算表を用います。
・妻の相続税額
5,000万円×20%-200万円=800万円
・長男の相続税額
5,000万円×20%-200万円=800万円

5.相続税額を合計する 。
法定相続分ごとに算出した相続税を合計します。
妻800万円+長男800万円=1,600万円

6.相続税額合計を実際の相続分に応じて各相続人に配分する。
相続税額1,600万円を、各相続人の実際の相続分に応じて配分します。実際の相続分に応じて配分するには、「あん分割合」を使用します。

「あん分割合」は、課税価格の合計額(1億4,200万円)に対する、各相続人の課税価格(妻1億円、長男4,200万円)の割合から計算します。「あん分割合」を使用して、相続税の合計額1,600万円を各相続人に配分すると次のようになります。
・妻:1,126万円7,600円(100円未満切り捨て)
・長男:473万2,300円(100円未満切り捨て)

7.税額控除などを行い、各相続人の納付税額を計算する。
各相続人が納付する相続税額は、各相続人の状況によって加算される場合と減算される場合があります。今回の例では「配偶者の税額軽減(※)」によって、妻の納付税額は0円。したがって、最終的な納税額は、次の通りです。
・妻:0円
・長男:473万2,300円

※「配偶者の税額の軽減」とは、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、次の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度です。
(注) この制度の対象となる財産には、隠蔽又は仮装されていた財産は含まれません。
(1) 1億6千万円
(2) 配偶者の法定相続分相当額

相続税を算出する際の注意点

計上した財産の中に「非課税財産」がある場合、その財産は相続財産には含めません。例えば下記が代表的なものです。
・お墓や仏壇、日常礼拝に使用する祭具
・死亡保険金や死亡退職金のうち、相続人が受け取る一定の金額

また、被相続人の「債務」を相続した人や、被相続人の「葬式費用」を負担した人は、その金額を受け取った財産から控除することができます。被相続人の「債務」とは、被相続人の借金や未払いの料金、税金といったマイナスの財産です。ただし、相続開始の時に被相続人の債務の額が確定していないものは控除できません。被相続人の「葬式費用」とは、被相続人の通夜や葬儀の費用、火葬や納骨の費用、御遺体の捜索や運搬の費用などを指します。

相続税を減らす方法例

相続税を減額させる一般的な方法として、「小規模宅地等の特例」が挙げられます。被相続人の土地を相続した時に相続開始時におけるその土地の用途が、被相続人や一定の親族の居住用・事業用・貸付事業用であった場合、それぞれの要件を満たすことによって、その土地の相続税評価額を80%又は50%減額することができる制度です。

土地と限度面積、減額割合は次の通りです。

相続開始時の用途限度面積減額割合
特定居住用宅地等330平方メートル80%
特定事業用宅地等400平方メートル80%
貸付事業用宅地等200平方メートル50%


小規模宅地等の特例は、相続税を計算するうえで必ず利用するべき特例であるため、現在の状況が適用要件に合致しているのかを確認することが必要です。

まとめ

相続税はどなたにも課税されるものではありません。しかし、いざ相続が発生した時に思わぬ相続税額が発生し、納税資金を捻出するために泣く泣く先祖代々の不動産を売却するといったことも起こりえます。今回ご紹介した相続税の計算は、ほんの一例です。個々の状況に応じて、様々な特例や加算・減額要素を考慮して算出する必要があるでしょう。まずはご自身で概算金額を計算していただき、その後に生前対策を進める際は、税理士などの専門家にご相談することをお勧めします。

構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・http://kyotomedialine.com

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

 

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