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中納言兼輔は、藤原兼輔(ふじわらのかねすけ)のことです。平安時代中期の公卿(くぎょう)であり、歌人としても名高い人物です。877年に藤原利基の六男として生まれ、醍醐天皇のもとで右衛門督(うえもんのかみ)や参議といった要職に就き、従三位中納言まで昇進しました。彼は三十六歌仙の一人で、和歌や管弦に優れ、いとこの藤原定方の娘と結婚し、紫式部の曾祖父にあたります。

鴨川堤にあった邸宅は「堤第(つつみてい)」と呼ばれ、兼輔自身も「堤中納言」の通称で親しまれました。

この邸宅には多くの文人墨客が集まり、和歌や管弦を楽しみました。兼輔は紀貫之や凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)といった著名な歌人はもちろん、無名の若手歌人にも気さくに接し、育成にも力を注いでいました。歌壇の後援者的存在として、多くの歌人に影響を与えたといえます。

醍醐天皇の信任厚く、出世の階段を順調に駆け上がりましたが、天皇の崩御を深く悲しみ、その後を追うようにこの世を去りました。「みかの原〜」の歌は、実は家集には含まれておらず、作者未定だった歌が後に兼輔作とされたという説もあります。勅撰和歌集には58首もの歌が選ばれており、兼輔の歌人としての才能の高さを示しています。

中納言兼輔『百人一首画帖』より
(提供:嵯峨嵐山文華館)

目次
中納言兼輔の百人一首「みかの原~」の全文と現代語訳
中納言兼輔が詠んだ有名な和歌は?
中納言兼輔、ゆかりの地
最後に

中納言兼輔の百人一首「みかの原~」の全文と現代語訳

みかの原 わきて流るる いづみ川 いつみきとてか 恋しかるらむ

【現代語訳】
みかの原を二分するようにして湧き出て、流れる泉川ではないが、いったいいつ逢ったといって、こんなに恋しいのだろうか(一度も逢ったことがないのに)。

『小倉百人一首』27番、『新古今和歌集』996番に収められています。「みかの原」は、現在の京都府南部、木津川北部の地域。「泉川」は、現在の木津川を指します。「わきて流るる」の「わき」は、「湧く」と「分ける」の掛詞となっており、泉が湧き出て流れる様子と、みかの原を分けるように流れる様子を表現しています。

「いつ見きとてか」は、「いつ(あなたに)会ったというのか」という意味で、まだ見ぬ女性への恋心を表現しているという解釈が有力です。「恋しかるらむ」は「恋しいのだろうか」という意味で、この表現によって、恋心がより一層強調されています。

中納言兼輔『百人一首画帖』より
(提供:嵯峨嵐山文華館)

中納言兼輔が詠んだ有名な和歌は?

兼輔は、三十六歌仙の一人だけあって多くの歌を残しています。その中から二首紹介します。

人の親の 心は闇にあらねども 子を思ふ道に まどひぬるかな

【現代語訳】
子を持つ親の心は闇というわけでもないのに、親というものは子のこととなると、道に迷ったかのように、どうすればいいか分からず混乱してしまうことですよ。

『後撰和歌集』1102番に、収められています。詞書(ことばがき、和歌の前書きのこと)によると、相撲の節会の後の酒席で、仲間たちと共に子供について語った際にこの歌を詠みました。「親の心は闇ではない」と前置きしながら、実際の子育てでは、どう対応すべきか判断に迷う親の複雑な心情を詠んでいます。

これは多くの親が共感できる普遍的な感情であり、親の心の葛藤と愛情が見事に表現されています。

みじか夜の ふけゆくままに 高砂の 峰の松風 吹くかとぞ聞く

【現代語訳】
短い夏の夜が更けてゆくにつれて、ますます趣深く響く琴の音を、あたかも高砂の峰の松に風が吹きつけ音を立てているのかと聞くことだ。

『後撰和歌集』167番に収められています。詞書には「夏の夜、深養父が琴ひくをききて」とあり、夏の短い夜、清原深養父(ふかやぶ)の琴の音色に聴き入った情景を詠んだ歌です。

「みじか夜」は夏の短い夜を指し、「ふけゆくままに」は夜が更けていく様子を表しています。そして、「高砂の峰の松風」は、深養父の奏でる琴の音色を松風に喩えた表現です。高砂は播磨国の歌枕で、松の名所として知られていました。

中納言兼輔、ゆかりの地

中納言兼輔のゆかりの地を紹介します。

廬山寺(ろざんじ)《堤第》

京都にある堤第(つつみてい)は、平安時代中期に中納言兼輔が所有した邸宅で、鴨川堤に位置していました。兼輔はここで多くの歌人を招き、サロンのような文化交流の場としていました。

堤第は、兼輔の子孫である紫式部も居住したとされ、源氏物語誕生の地ともいわれています。現在、堤第跡とされる場所には廬山寺があり、紫式部ゆかりの寺としても知られています。

最後に

中納言兼輔の和歌は、千年以上を経た今でも私たちの心に響いてきます。和歌を通じて平安時代の人々の繊細な感性に触れることは、現代を生きる私たちにとっても、心を豊かにする貴重な経験となるのではないでしょうか。

※表記の年代と出来事には、諸説あります。

引用・参考図書/
『日本大百科全書』(小学館)
『全文全訳古語辞典』(小学館)
『原色小倉百人一首』(文英堂)

アイキャッチ画像/『百人一首かるた』(提供:嵯峨嵐山文華館)

●執筆/武田さゆり

武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

●協力/嵯峨嵐山文華館

百人一首が生まれた小倉山を背にし、古来景勝地であった嵯峨嵐山に立地するミュージアム。百人一首の歴史を学べる常設展と、年に4回、日本画を中心にした企画展を開催しています。120畳の広々とした畳ギャラリーから眺める、大堰川に臨む景色はまさに日本画の世界のようです。
HP:https://www.samac.jp

 

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