『金々先生栄花夢』の出版

安永4年(1775)、鱗形屋孫兵衛は、恋川春町(こいかわ・はるまち)画作の『金々先生栄花夢』を刊行しました。この作品は、黄表紙のジャンルを確立したとされました。子供向けで幼稚低俗であるとされていた草双紙のイメージを一変させ、庶民の生活や風俗をユーモラスに描いた大人向けの読み物に仕立てたのです。

これにより鱗形屋は、江戸文学における重要な版元としての地位を確立しました。

『金々先生栄花夢 : 2巻』著者:恋川春町 作・画、出版者:鱗形屋孫兵衛、安永4年(1775)刊
(国立国会図書館デジタルコレクション) (https://dl.ndl.go.jp/pid/2537596/1/8)をトリミングして作成

『吉原細見』や宝船の出版

鱗形屋は『吉原細見(よしわらさいけん、遊郭の案内書)』や『武鑑(ぶかん、諸大名・旗本の氏名・禄高・居城などが記された本のこと)』、『宝船』(正月用の摺物)の出版でも知られていました。これらは江戸の生活文化に密接に関わるもので、当時の人々に広く親しまれていました。

衰退と第一線からの退却

天明年間(1781~1789)以降、鱗形屋は徐々に出版活動を縮小し、第一線から退いていきます。この時期、『吉原細見』の版権を手放すなどして経営が縮小した背景には、出版物の市場の変化や競争激化があったと考えられます。

まとめ

鱗形屋孫兵衛は、江戸時代の出版文化を支えた重要な存在でした。浄瑠璃本や草双紙の時代から黄表紙の確立に至るまで、多様な出版物を手掛け、江戸文学や庶民文化に多大な影響を与えました。

『金々先生栄花夢』のような作品を通じて、庶民の娯楽や知識の提供に寄与した鱗形屋の活動は、当時の出版界の発展を物語っています。その一方で、時代の変化とともに第一線から退いたことも、出版業界の移り変わりを象徴する出来事だったといえるでしょう。

※表記の年代と出来事には、諸説あります。

文/菅原喜子(京都メディアライン)
肖像画/もぱ(京都メディアライン)
HP:http://kyotomedialine.com FB

引用・参考図書/
『日本大百科全書』(小学館)
『世界大百科事典』(平凡社)
『日本人名大辞典』(講談社)
『国史大辞典』(吉川弘文館)
『朝日日本歴史人物事典』(朝日新聞出版)

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