ライターI(以下I):『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下べらぼう)が始まりました。映像はいきなり江戸の大火。明和9年(1772)に現在の目黒区大円寺が火元の火事になります。
編集者A(以下A):火元の目黒から劇中の吉原まではおおよそ14km離れていますから、江戸の大火恐るべしです。劇中では主人公の蔦屋重三郎(演・横浜流星)が火の見櫓に登って半鐘を打ち鳴らす場面が描かれました。本物の火とVFX(最新のデジタル特撮技術)を駆使したということで、迫力ある映像が実現しました。
I:VFXというと、2年前の『どうする家康』でも多用された技術ですが、『どうする家康』をご覧になった方なら気がついたかもしれませんが、技術力が明らかにアップしている印象でした。
A:本物の炎と区別がつきませんでした。ドローン映像もあり、迫力満点のオープニングでしたね。そして大河初出演、初主演の横浜流星さん。目力も強く、蔦重がすっかり様になっていて、引き込まれる演技です。
吉原のルール
I:1年の長丁場の大河ドラマでは、第1回目は今後の見どころを暗示する場面が多かったりするのですが、『べらぼう』第1回についても、今後に期待がもてる場面が続出しました。そうした場面を一気に語りつくしたいと思います。まずは、吉原の「ルール」をよく知らない若い武士たち。大門前の茶屋に刀を預けるしきたりを知らないということでした。
A:いや、実は私たちも当時の吉原のしきたりなどに精通しているわけではありませんから、こういう場面はありがたいです。権力の象徴である刀を預けることで、当時の一般的な階級社会とは別の平行世界のような吉原で遊んだんですね。茶室などでも刀を預けますが、みな平等という感覚と、刃傷沙汰を避ける意味合いもあるのかもしれませんね。
I:刀を預かるのが茶屋。いわゆる吉原の女郎屋への案内所のような存在です。
A:よくよく考えると吉原のシステムというのは現代人にとってはまどろっこしいというか面倒くさいですね。お目当ての女郎とすぐに遊べるわけではない。引手茶屋で宴席をする。これはこの客の人体(にんてい)とか支払い能力の有無を見定められているということでもあるのでしょうが、若い武士たち、実は、後の「鬼平」こと長谷川平蔵の若い頃という武士にその役回りをさせているのがポイントですね。
I:ものすごくわかりやすい感じになりましたね。ここで長谷川平蔵役を演じているのが中村隼人さん。祖父が四代目中村時蔵、父が二代目中村錦之助という名門で、萬家錦之助さんは大叔父になります。
A:気が早い話ですが、そのまま『鬼平犯科帳』にスライドしてもそん色のないキャスティング。ちょっとわくわくしますね。
女郎「朝顔」の死をみつめて
I:第1回で印象に残ったのは、安い店の女郎である「朝顔(演・愛希れいか)」の死です。
A:両親と離れ離れになって吉原で育てられた蔦重の精神的な支えだった女郎という設定でした。その朝顔が年月を経て、安い店に転籍を余儀なくされる。およそ10年という年季があったといいますが、悪所吉原の「影」の部分もしっかり第一回で描いてきましたね。
I:朝顔さんが病気で亡くなったあと、お寺の境内に裸で捨てられる場面は衝撃的でした。最初は着物を着た状態で捨てられても、剝がされたということでした。よく江戸は究極のリサイクル社会だったといいますが、ここまで徹底されていたとはちょっとびっくりですね。
A:上級店の女郎の食事と下級店の女郎の食事の格差もしっかりおさえられていました。彼女たちは貧しい出で、食べるものにも寝る場所にも事欠いて、売られてきたわけです。吉原で働くことで、食べること、寝る場所は確保できたとしても、最終的にはまた食べ物に困る立場になってしまう。
I:ちょっと胸が熱くなりますね。
【田沼意次との対面。次ページに続きます】