大河ドラマ初出演、初主演の蔦屋重三郎役、横浜流星さん。(C)NHK

ライターI(以下I):2025年1月5日に大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』が始まります。大河ドラマの舞台としては、平安時代中期から江戸時代中後期へ、一気に750年くらい飛ぶわけですね。

編集者A(以下A):はい。興味深いのが、『源氏物語』の著者紫式部から、江戸の出版王といわれた蔦屋重三郎に主役のバトンタッチがなされることです。私たち出版人の大先輩ふたりの人生が立て続けにドラマ化されるわけで、感慨深いものがあります。今回、蔦屋重三郎こと蔦重のことをいろいろと調べていて改めて気付いたのですが、江戸時代の知識人は当然のように『源氏物語』を読んで知っていて、小説なり絵画なり、作品の題材として『源氏物語』のモチーフを随所に取り入れているんですね。さらに劇中の登場人物の中には「うつせみ(演・小野花梨)」という吉原の女郎がいて、これなんかは『源氏物語』を由来とする正統的な「源氏名」ということになります。

I:歴史の大河はつながっているということですね。さて、その『べらぼう』ですが、2025年1月5日日曜日のいつもの時間(20時)の本放送開始に先立ち、主人公の蔦屋重三郎役の横浜流星さんに取材しました。横浜さんは大河ドラマ初出演で初主演ということになります。横浜流星さんのお話をどうぞ。

大河ドラマは目標のひとつとしていた作品だったのでオファーを受けたときは、嬉しかったです。でも、それ以上に、なぜ? というのが大きかったですね。多くの場合、NHKのドラマに携わってこられた俳優さんたちが大河ドラマの主演になられると思うんです。自分の場合、NHKの作品に携わったことがありませんでしたし、大河ドラマ初出演で初主演。なぜ自分を選んでいただいたのか、今でも疑問に思っています。でも選んでいただけたからには、責任を持って作品を届けたいと思っています。

なんとなく自分の中で大河ドラマは重厚感があるイメージで、若者たちが身構えて見てしまうのかなという印象がありました。でも、『べらぼう』は、スケール感などはもちろん大河ドラマならではですけど、いい意味で大河ドラマらしくないんですよね。『べらぼう』の場合、派手な戦闘シーンがないからこそ、商いの戦いになっているし、ビジネスストーリーであり、喜劇でもあります。陽気な登場人物たちが多くて、しっかりエンタメにもなっているかなと思います。脚本家の森下佳子先生がひとりひとりの登場人物をしっかり描いてくれているので、みんなが魅力的に輝いているんですよね。森下先生の力もあって、重たいイメージがない。だからこそ、これまでの大河ドラマファンはもちろん、大河ドラマを見てこなかったという方々や、自分と同じ世代の方々にもこの作品を見て、楽しんでいただきたいなと思っています。そのために自分も頑張りたいなと思っています。話し方や所作で難しいところはあります。言葉のニュアンスや「〜でさぁ」みたいな言い回しを語尾につけることがあったり、普段の話し方と少し違って難しいのですが、自分に馴染ませて、大事にしながら、監修や専門家の先生方に教えていただき、脚本に沿って演じています。所作も、自分は江戸時代を実際には生きていないし、この目で見ていないからわからない。でも、そこに囚われすぎず、自由に蔦重を生きていけたらと思っています。

A:「蔦重を生きる」という横浜さんの言い回しに、ぐっときました。横浜さん演じる蔦屋重三郎ですが、我々の知っている大まかな知識としては、喜多川歌麿や東洲斎写楽を世に売り出したこと、文化人たちに活躍の場を多く与えるなど、江戸の出版業界に大きな変革をもたらし、活気づかせた人物ということです。田沼意次の政策により蔦重たち文化人が活躍できる土壌ができあがっていたことは改めてお伝えしたいと思っていますが、横浜さんにとって蔦重はどんな人物なのかということも、語ってくれています。

蔦屋重三郎は、自分たち現代人の誰もが知る人物ではないと思います。でも、多くの功績を残していて、江戸のメディア王、出版王といわれる人物です。今でいうと出版社の社長であり、プロデューサーであり、営業も含めすべて自分でやった、本当に多彩な人物なんですよね。情に厚かったり、責任感があったり、挑戦し失敗してもへこたれないメンタルなど、蔦重がもともと持っているものもあるとは思うんですけど、やっぱり自分ではなく誰かのために動けるところが彼のいちばんの魅力だと思います。吉原だったり、女郎だったり、絵師、そして世の中……蔦重のように、他者のために動こうと思える人間は強いと思うんです。自分も、自分だけでなく誰かのために動ける人間になりたいと思います。

I:情に厚く責任感が強く、失敗しても立ち上がる……かっこいいですね。そんな蔦重の役作りをする上での工夫についても、横浜さんが語ってくれています。

役作りのために、実際に蔦重が生まれ育った場所に行って空気を感じたり、資料を見たり、専門家の先生に会って話を聞いたりしました。それから、映画『HOKUSAI』で蔦重を演じた阿部寛さんにもいろいろとお話を聞いたりしました。阿部さんからは「流星らしく」と言われましたが、その言葉に阿部さんのいろんな思いが込められていると思うので、それをちゃんとくみ取れればと思います。でもやはり一番は脚本の森下先生の描く世界の蔦重を大事にしながら、自分にしか生きられない蔦重を生きられたらと思っています。1年間はやっぱり、贅沢ですよね。ドラマや映画などに出演していても、準備が多い作品だと、時間が足りないなと思うことが多いのですが、大河ドラマで1年間演じることができるのは幸せなことだなと思います。とにかく蔦重の人生は波乱万丈すぎて、心も身体も疲れます。1年間駆け抜ける体力をつけなきゃいけないですね。みなさんに愛される蔦重をつくっていけたらと思っています。

A:蔦重というと、吉原で生まれ育って、後に江戸一番の繁華街日本橋に出て本屋として大成するわけですが、当時の出版・本屋業界はあまり新参者を受け入れない風潮があり、まして、吉原という遊里は一種の自治区のようなところがあって、江戸の一般的な商人・町人たちからも特別視されていた部分があったわけです。そこからいきなり出てきた本屋ということで、当然ながら苦労も多かったはず。その辺りについては今後ドラマでも描かれていくことになると思いますが、横浜さんは頂点に上り詰めることになる蔦重をどのように見ているのでしょうか。

蔦重は共感性の高い人物で、このドラマを見てくださる方々の身近にいるような人物だと思うので、感情移入しやすいと思います。人間臭いですし、すごく情けないところもあるんですけど、本来、みんながこう生きたいと思うようなことができる人でもあると思います。行動力が凄まじいんですよね。すごいなと思うのは、うまくいかないなら次、うまくいかないなら次と、決して諦めないこと。周りにも恵まれています。やはり周りの人からヒントを得て、いつもひらめいていて。そこをちゃんとすくい取れているのは、周りをちゃんと見ているからなんですよね。とにかく毎回、彼の行動力には驚かされますが、しかもそれは誰かのためにやっていることなわけで。人間としてリスペクトします。

I:「本来、みんながこう生きたいと思うようなことができる人」というのが、蔦重の全てを物語っているのかもしれませんね。蔦重のその原動力はどこからわいてくるのでしょうか。

自分に与えられた境遇で、そうだよな、仕方ないよな、と諦めるんじゃなく、その中でもがいて、動くことが大事なのかなと思っています。自分も年を重ねて、自分の心の中で思うことはたくさんあるし、それを飲み込むんじゃなくて発信することが大事だと改めて思っています。変わらないかもしれないけど、やってみないとわからないし。蔦重がそういうのにも負けずに立ち向かうところにも、背中を押されています。

A:横浜さんが演じる蔦重像をお聞きして、これはまさに、今の時代に生きる子供たちにぜひ、見てもらいたい大河ドラマだなと改めて思いました。放送開始まであと24時間。心して待ちたいと思います。

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ べらぼう 蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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