田沼意次との対面

田沼意次(演・渡辺謙)に談判する蔦重。(C)NHK

I:さて、私が第1回で印象に残ったもうひとつの場面が、田沼意次(演・渡辺謙)と蔦重の対面シーンです。

A:大河ドラマのオールドファンにとって渡辺謙さんは、『独眼竜政宗』の伊達政宗で知られるレジェンド俳優。当時の渡辺謙さんの年齢と現在の横浜流星さんはほぼ同年代だそうです。

I:蔦重が田沼屋敷に入り込むためにくっついていった吉原のお得意さんの大商人和泉屋(演・田山涼成)の「手土産」の壺に小判が詰め込まれていました。

A:現代でいうところの菓子折りのような感覚かと思うので、これをもって、「賄賂」「金権」政治家の田沼意次と考えるのは早計です。田沼意次については、キーマンでもありますから、改めて場をもうけましょう。

I:第1回の対面場面では、けっこう重要なやりとりがありました。蔦重は、幕府公認の吉原に元気がないのは、非公認の遊び場が品川や深川などに出現したためで、意次に取り締まってほしいと懇願します。

A:ところが、意次は、岡場所と称された非公認の遊び場の隆盛はまた「経済」の観点からは良いことという認識で、逆に蔦重に吉原は人を集める策を講じたのか、と問い詰めます。なまじまじめな人間なら、「いまさら吉原に人を呼びこむなど無理です」などとしり込みするのでしょうが、蔦重は異なります。

I:意次の問いに「気づき」を得たようです。なんだかわくわくしますね。

A:田沼意次が醸成した自由な雰囲気。そこには身分にとらわれずに、アイディアを出したものが勝ちという雰囲気がありました。ここがまずこの時代のポイントで、その空気の中でがぜん飛躍するのが平賀源内(演・安田顕)ということになります。

I:田沼意次の政策に反対する勢力も多かったのでしょうね。

A:そうです。紀州藩の中下級藩士を父に持つ田沼意次ですが、すでにこの頃から「足軽あがりが」と実際よりも低くみられていた節もあります。

I:名門からすれば中下級藩士も足軽も対して変わらないということでしょう。そうした争い、これはひじょうに現代的でもありますが、注目ですね。

料亭百川の料理が登場

I:百川という料亭のお弁当が登場しました。かぼちゃ仕立てのかぼちゃが私のツボでした。

A:お、そうですか。このあたりはしっかり解説いただかないとわかりにくいのではないですかね。

I:はい。女郎屋や引手茶屋の親父に女将たちが集う場所で、大文字屋(演・伊藤淳史)のことが女郎にかぼちゃを食べさせていたという表現もでました。かぼちゃしか食べさせない=ケチの大文字屋、という背景があります。

A:なるほど。そしてこの百川という料亭は「八百善」と並んで江戸の人気料亭のひとつ。現在の日本橋にコレド室町という商業施設がありますが、そこに隣接する福徳神社の社務所が立つ場所に百川はあったと言います。お弁当の掛け紙に「浮世小路」とありましたが、本当に美術の人たちは芸が細かいですね。

I:この百川は、「べらぼう」の時代からおよそ90年後のペリー来航の際には、ペリー艦隊の面々を接待するための料理を担当したという名店なのですよね。

A:そうなんです。ところがそんな名店も明治維新後に忽然として姿を消したと言います。なぜそんなことになったのかは謎のようですね。

吉原の親父と女将たち

I:さて、駿河屋(演・高橋克実)の店で開かれた吉原の親父、女将の面々の会合ですが、女郎屋と引手茶屋の主人たちが揃いました。

A:あまり説明がなかったので、いったいどういう人たちなの? と思われた方もいるかと思いますので、次回しっかり解説したいと思います。

I:私は「ありがた山のかんがらす」という言葉が印象に残りました。時の権力者に対していう言葉? という印象を感じた人もいたかもしれませんが、権力者に対しても物おじせずにぶつかっていくという蔦重のメンタリティをこれほど表す場面はないですね。

A:次回も楽しみですね。

吉原の親父たち。(C)NHK

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ べらぼう 蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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