数多の精緻な部品が組み合わさり時を刻む──その機構は変わらねど“令和の技術と精度”が息づく、現代日本の機械式の銘品を紹介する。
ミナセ/VM15-M01NBL-SSB
ひとつの工具から始まった、日本の伝統が息づく機械式への大いなる挑戦
時計メーカーには長い歴史に培われた印象がある。その一方で近年、国内でもいくつか新進の機械式ブランドが誕生している。いずれも小規模ながら独創的で、本格的な技術や仕上げは大手さえも凌駕する。それは世界有数の時計先進国として、国産時計の多様性と豊潤を象徴する。先鞭となったのが2005年に設立されたミナセだ。1963年創業の切削工具メーカー、協和精工を母体にした異業種からの新規参入である。
精密加工用ドリルなどを専門にしていた同社が、あるとき、時計メーカーの依頼で独自の段付きドリルを開発した。これが高い評価を得たことで時計業界との結びつきが深まり、ケースやブレスレット製造へと発展。完成品の製造委託が始まり、オリジナルブランドへの扉を開いたのである。
イメージしたのは日本庭園
その成り立ちから強みとする切削やプレス、研磨の技術を余すことなく注いだのが、本作のセブンウインドウズだ。複雑な三次元曲線からなるケースやブレスレットを、筋目と鏡面の異なる仕上げが美しい造形を際立たせる。まさに金属加工の玄人の本領発揮だ。
モデル名の由来となったのが、前面、裏蓋と側面に配した計7枚のサファイアガラスである。普段は見ることのできない角度から内部構造を見て楽しめる。イメージしたのは、雪見障子越しに眺める日本庭園の風景という。
そこから一目瞭然となるのが、四方を留めてケース内で中空に浮かび上がらせたムーブメントだ。ケース・イン・ケースと名付けたユニークな二重構造で、複雑かつ精緻なデザインと立体構造が実現できたのも、工具から触発される発想と、それを手にした人間が生み出す無限の可能性があってのこと。そのブランドロゴに、時計作りの原点となった段付きドリルを象るのも納得できるだろう。
※この記事は『サライ』本誌2024年6月号より転載しました。