ほんとに剃髪した「道長」
I:ところで、今週は道長出家しました。
A:『光る君へ』の劇中ではあまり触れられませんでしたが、道長は仏教に熱心に帰依していました。『源氏物語』に「横川の僧都」として登場する源信にも帰依していたともいいます。寺院の建立に熱を入れ、仏像の造立にも尽力したそうです。
I:その出家のシーンですが、柄本佑さんは実際に剃髪して撮影に臨んだそうです。
A:そのことを聞いて驚きました。柄本さんは道長を演じるにあたって地毛を伸ばして撮影にあたっていたそうです。役者魂すさまじきという印象ですが、出家にあたって実際に剃髪するとは驚くべきことです。大河ドラマのオールドファンには有名なエピソードですが、1972年の『新・平家物語』で平清盛を演じた仲代達矢さんが清盛出家の場面で実際に剃髪して臨んだという故事が伝えられています。
I:なるほど。
A:オールドファンのエピソードといえば、1991年の『太平記』での高師直役を演じた柄本明さんの熱演も忘れられません。あれから30年余。佑さんの大河での好演は、大河ファンにとっては、感涙ものなのですよ。
今度はまひろが旅をする
I:ものがたりの最終盤になって、まひろが旅をしたいといいだします。
A:太皇太后彰子(演・見上愛)には、まひろに代わって娘の賢子(演・南沙良)が仕えることになりました。劇中の設定でいえば、賢子は太皇太后彰子の異母妹ということになります。
I:まひろから道長に、「あなたの娘」とついに告白するわけですが、賢子は要するに、自分の異母姉に仕えることになるわけですね。あくまでドラマの中では。賢子は、宮の宣旨(演・小林きな子)から越後弁という名前をもらっていましたね。
A:話は戻りますが、まひろが旅立つというこの流れ、なんかいいなと感じました。実際に紫式部は大宰府に行ったんですか? といわれると、「さあ、どうでしょう」という感じですが、『光る君へ』の世界の中では、すごく重要な旅になる予感がして、わくわくします。
I:Aさんにしては珍しいいいようですね。
A:道長とまひろの生きた時代は、宮廷内の権力闘争こそありましたが、国内は平和でした。いや、むしろ平和であったからこそ、権力闘争にうつつを抜かしていたといってもいいでしょう。都を震撼させた平将門や藤原純友の乱は道長の時代の80年ほど前の出来事でした。
I:来年の2025年はちょうど終戦80年の節目の年になりますが、道長の時代も承平天慶の乱からおよそ80年。歴史は繰り返すとはいいますが、どうなんでしょう。興味深いですね。
A:古代の日本では、唐の国が最強だった時には、その侵攻に備えて、水城を築き、瀬戸内海の各地に朝鮮式山城を築いて、国防を充実させました。この頃築かれた対馬の金田城は「この時代によくぞ」という規模の威容を今日も遺しています。訪れるのは大変ですが、一見の価値のある山城で、古代日本が大国唐と真剣に対峙しようとした心意気を感じることができます。
I:平和が続くと、ほころびがあっても気がつかないことがあるのでしょうね。
A:『光る君へ』では後半になって、伊藤健太郎さん演じる武者の双寿丸が出てきたりして、次の時代への移行期であることを感じさせます。
I:まひろは九州の地でどんなことに遭遇するのでしょうか。とりあえず、再登場ですね、周明(演・松下洸平)。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり