「あれ? なんて漢字だったっけ」と悩むことが多くなっていませんか? 少しだけ思い出す努⼒をしてみるものの、結局は「まあ、いいか」と諦めることもあったりして、記憶の衰えを実感することもあるのではないでしょうか? しかし、思い出すことが記憶⼒の鍛錬につながると⾔われています。
「脳トレ漢字」第224回は、「翻す」をご紹介します。普段からよく耳にする言葉ですが、漢字で書かれると一気に難しくなりますね。実際に読み書きなどをしていただき、漢字への造詣を深めてみてください。
「翻す」とは何とよむ?
「翻す」の読み方をご存知でしょうか? 「ほんす」ではなく……
正解は……
「ひるがえす」です。
『小学館デジタル大辞泉』では、「さっと裏返しにする。」「からだをおどらせる。」「態度などを急に変える。」「風になびかせる。ひらめかす。」と説明されています。「反旗を翻す」という表現にもある通り、「反逆する」「態度を急変させる」という意味として使われることが多いです。
また、かつては「原作をもとにして内容を作り変える」という意味もあったそうです。
「翻」の漢字の成り立ちは?
「翻」は形成文字で、「羽」は「鳥が飛ぶこと」を意味し、「番」には「ひるがえる」という意味が含まれているそうです。そのため、「翻」は「鳥が羽をひるがえして飛ぶ様子」を表しており、言葉の意味にもつながっていると考えられます。
平将門と武士の台頭
皆さんは、武士が誕生したのはいつ頃のことだと思いますか? 正確な時期については分かっていませんが、10世紀から12世紀の平安時代後期頃に誕生したと考えられているそうです。起源についても諸説あり、「地方の豪族が自分たちの土地や家族を守ろうとしたため」という説や、「朝廷に仕える下級貴族が武芸を身に着けたため」という説などがあります。
自分の身は自分で守らなければならない、不安定な時代に誕生した武士。この武士が、貴族の地位を揺るがすほどの力をつけるきっかけとなった出来事が、「平将門(たいらのまさかど)の乱」だといわれています。平将門は桓武(かんむ)天皇の子孫・平高望(たいらのたかもち)の孫で、関東地方の豪族です。
所領を奪い、国司(地方に配属された役人)と癒着して圧政を敷く叔父・国香(くにか)を討ち、武力をもって一族の争いを制した将門。年貢を減らすなどの善政を行い、地元の民衆を味方につけた将門は、関東全域に勢力を拡大することに。そして、天慶2年(939)に自らを「新皇」と名乗り、朝廷に反旗を翻しました。
一方で、将門の勢力を恐れた朝廷は、「将門を討った者には貴族の位を与える」と通達し、国香の嫡男・貞盛(さだもり)と豪族・藤原秀郷(ふじわらのひでさと)がこれに応じることに。貞盛・秀郷の連合軍と戦った将門は、額を矢で射られて戦死し、反乱は鎮圧されることとなったのです。
「平将門の乱」によって、朝廷は地方武士の実力を思い知らされることとなりました。また、貴族の力だけでは、反乱を鎮圧することができないという事実も浮き彫りになりました。これを機に、下級貴族や地方の豪族が「押領使(おうりょうし)」や「追捕使(ついぶし)」に登用され、国内の治安維持を任せられるようになったのです。
これが、朝廷の武官としての武士の誕生であり、貴族の世から武士の世へと時代が移り変わるきっかけになったといえます。
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いかがでしたか? 今回の「翻す」のご紹介は、皆さまの漢字知識を広げるのに少しはお役に立てたでしょうか? 日本史の教科書にも必ず登場する、平将門。しばしば「悪党」というイメージを持たれがちですが、国司の圧政に苦しむ民衆にとってはまさに救世主のような存在だったのかもしれません。
将門が起こした反乱を機に、時代は大きく変わっていくこととなったのです。
文/とよだまほ(京都メディアライン)
HP:https://kyotomedialine.com FB
参考資料/『デジタル大辞泉』(小学館)
『日本国語大辞典』(小学館)
『世界大百科事典』(平凡社)