大江匡衡は赤染衛門の夫
A:道長の要請で一条天皇の今後を易筮(えきぜい)したのが、大江匡衡(演・谷口賢志)。一条天皇には「崩御の卦」があると道長に勧申します。この大江匡衡は、源倫子サロンや藤壺の女房としてもおなじみの赤染衛門(演・鳳稀かなめ)の夫でもあります。
I:完全に道長の「ミウチ」ということですね。安倍晴明(演・ユースケ・サンタマリア)存命時であれば晴明がやっていたことを「ミウチ」の大江匡衡がやっているというのも面白いですね。
A:ただし、劇中では、「崩御の卦」が出たことを道長が直接言葉には出しませんでした。代わりに行成(演・渡辺大知)が「言霊(ことだま)を憚って道長様はそのことを仰せにならなかったのだと存じます」と説明します。
I:ここで「言霊」という言葉が登場しました。なかなか深いですね。
次期東宮(皇太子)は誰になる
I:次期東宮を敦康親王にするのか、敦成親王にするのか、事態を動かしたのは、道長側近の藤原行成ということになりました。一条天皇は側近の行成に「立太子問題」について下問します。
A:一条天皇からすれば、行成が「敦康親王こそ次期東宮にふさわしい」と言ってくれると思っていたのかもしれません。ところが、行成は道長側近。しかも道長のために汗をかくことを歓びと感じている節もあります。行成が一条天皇を説得するために持ち出してきた「先例」が150年ほど前の清和天皇即位の際の故事でした。第55代文徳天皇には第一皇子に紀静子(きの・しずこ)所生の惟喬(これたか)親王がいて、文徳天皇も惟喬親王を東宮にと期待していました。ところが、藤原良房の娘明子所生の第四皇子惟仁(これひと)親王に継がせるために、「重臣」「外戚」の意見が尊重されるという仕組みが考えられ、惟仁親王が東宮になって後に即位することになるのです。
I:なるほど。紀静子とは有名な紀貫之の一族ということになりますが、藤原氏の勢いに完全に負けてしまったということなのですね。
A:紀家の家勢はそれほどではなかったと思いますが、惟喬親王の即位に望みをつないでいたと考えられます。ところが藤原良房らの策謀で、皇位は第4皇子の惟仁親王の手に渡りました。この時の、外戚としての格を行成は持ち出してきたわけです。留意したいのは、清和天皇の即位の際のエピソードも「藤原一族陰謀史」の一コマであるということです。
I:藤原一族の陰謀とは、本当に恐ろしいですね。
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