『源氏物語』は暴露本?
A:ところで、藤式部がいつの間にか中宮彰子に気に入られ、側近みたいになっていますね。
I:「殿御はみなかわいいものでございます」と藤式部が中宮彰子に指南します。劇中では道長一筋で、それほど恋愛遍歴を重ねた形跡が見られないわけですが、そんな藤式部から見ても中宮彰子の振る舞いにやきもきしていたのでしょう。
A:中宮彰子が一条天皇(演・塩野瑛久)のことを「殿御」として意識し始める様子が描かれていますが、この時、中宮彰子は20歳(満19歳)。奥手で奥ゆかしいという人物設定ということであれば、決して遅いわけではないですよね。
I:『源氏物語』作者の紫式部自身、そんなに男性経験があったのかというくらいの印象ですが、さすがの文才で、読む人の関心を誘うのがうまかったのでしょうね。藤式部の物語は今は、みんなが続きを読みたがる話題の物語になっています。
A:藤原公任(演・町田啓太)が「空蝉」の帖を箇所を読んで「とんでもない男だな」と光源氏のことを呆れてみせましたが、妻の敏子(演・柳生みゆ)に「あなたも似たようなこと、おありなのではございません?」とボディーブローを浴びていました。こういうやり取りを見ていると、同時代の人々からすれば『源氏物語』は暴露モノの側面もあったのかなと思ったりします。
I:ああ、なるほど。秘すれば花的な話が暴露されているから面白いって感じですかね。斉信(演・金田哲)は中宮彰子の女房のひとり小少将の君(演・福井夏)を抱きかかえながら読んでいました。相変わらずのプレイボーイですね。
A:そして後半、まひろが新たに書き始めたのが「若紫」の帖でした。「雀の子を犬君が逃がしつる。伏籠のうちに籠めたりつるものをとて、いと口惜しと思へり」(原文)。幼い頃の道長との思い出、出会いがここにつながってくるわけですね。
道長の金峯山寺詣で
I:中宮彰子の懐妊を祈願するために、道長は金峯山寺を詣でることを計画します。金峯山寺は、山岳信仰の一大拠点で2004年には「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産に登録されて、今年20周年となります。
A:あれからはや20年。周年ということで賑わいを見せていると思います。道長が参詣してから1017年。金峯山寺には道長直筆の紺紙金字の写経が納められて現存しています。せっかくの機会ですから、私も久しぶりにお参りに行きたいのですが……。
I:この時、道長41歳。何やら不穏な雰囲気のただよう中での出立となりました。いったいどのような展開になるのでしょうか。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり