ライターI(以下I):『光る君へ』第29回では 、まひろ(演・吉高由里子)の夫 藤原宣孝(演・佐々木蔵之介)が亡くなりました。歴史的な史実なので、この日がくることはわかっていたのですが、北の方(正妻)からの使者が「すでに弔いはすませました」というのですから、あまりに切ない場面になりました。
編集者A(以下A):藤原宣孝という人物がここまで魅力的に大河ドラマで描かれる日がやってこようとは本当に感慨深いことです。まひろとの間に一子賢子(演・永井花奈)をもうけたことになっていますが、その賢子は劇中では道長(演・柄本佑)の子という設定でした。それがまた違和感なく描かれる絶妙な脚本にただただ感嘆させられます。
I:絶妙……! 絶妙といえば、藤原行成(演・渡辺大知)がその日記『権記』で宣孝のことを絶賛するくだりがありますね。
A:『権記』長保元年11月11日条に賀茂の臨時祭の舞で人長(進行を司る)を務めた宣孝に対して「今日、調楽なり。(中略)右衛門権佐(宣孝のこと)の人長、甚だ妙なり」と記されています。「甚だ妙なり」というのは「絶妙」と絶賛しているということです。
I:上級貴族の行成から絶賛されるとは。宣孝の立ち振る舞い、所作は堂々たるものだったのでしょうね。もちろん容姿端麗だったのはいうまでもないことだと思われます。
A:遣唐使なんかも選ばれる基準が能力は当然のこととして唐の都の貴人をもうならせるような容姿端麗の人物が選ばれたといいます。唐には多くの国から同様の留学生が集っていたわけですから、国の威信がかかっていたともいいます。
I:宣孝といえば、第13回では、御嶽詣をした際に山吹色の派手な法衣を着て登場した場面が思い出されます。「紫のいと濃き指貫、白き襖、山吹のいみじうおどろおどろしきなど着て」という『枕草子』の有名な場面が映像化されて歓喜の声が上がったのも記憶に新しいところです。宣孝の存在、登場は一服の清涼剤のような感じもしました。
A:佐々木蔵之介さんの熱演で、藤原宣孝という人間の存在が多くの視聴者の胸に刻まれたのは間違いありません。特に子供たちは生涯「宣孝=佐々木蔵之介さん」になるんだろうと思います。
I:宣孝を熱演した佐々木蔵之介さん。『権記』の表現を借りて「甚だ妙なり」と絶賛したいと思います。
【宇佐神宮奉幣使を務めた宣孝。次ページに続きます】