豪華な屏風の気になるその後

彰子入内屏風に和歌を寄せた公任(演・町田啓太)。(C)NHK

I:さて、彰子の入内に併せて輿入れ道具のひとつとして考え出されたのが、屏風絵に和歌を貼り付けるという趣向です。『栄花物語』『今昔物語』などにも収録されるエピソードですし、藤原実資(演・秋山竜次)の『小右記』、藤原行成(演・渡辺大知)の『権記』、さらには道長自身の筆による『御堂関白記』にも描かれていますから、当時の貴族社会では話題を集めたのでしょう。

A:絵は当代きっての絵師飛鳥部常則の作。この屏風絵は記録に残る日本最初の「やまと絵」の作品と言われています。源俊賢(演・本田大輔)、藤原公任(演・町田啓太)、藤原斉信(演・金田哲)らに加えて花山法皇(演・本郷奏多)まで和歌を寄せてくださったようです。

I:藤原公任の和歌が、「紫の雲とぞみゆる藤の花  いかなる宿のしるしなるらむ」です。この歌は、『栄花物語』にも『今昔物語』にも掲示されています。『新編 日本古典文学全集』(小学館)によると、その訳文の比較ができます。「紫雲がなびいているかと思える藤の花は、どれほどめでたい家の瑞祥として咲いているのだろうか=『栄花物語』」「この藤の花が紫の雲かとも見えるほど美しく咲き誇っているのは。この家のどのような吉兆なのであろうか=『今昔物語』」。

A:公任の歌は、道長の家の栄華を寿ぐ内容の歌になっているわけですね。そして、興味深いのが花山法皇の歌。「ひな鶴を養ひたてて 松が枝の 陰に住ませむ ことをしぞ思ふ」(ひな鶴を養い育てて、ときわの松の枝にいつまでも住まわせたいと、そのことが願われる=『新編 古典文学全集』より)という歌です。半ば騙されて出家・退位してから13年。まだ30代前半の法皇でした。

I:さて、藤原実資が要請されたのに拒んでいたのは、貴族社会の教養といえば漢詩の方が主流で、「なぜ公卿が?」という思惑があったのでしょう。日記の『小右記』には何日にもわたってこの話題のことを記しています。

A:藤原実資は己の信念を貫いているわけですね……。さて、少し脱線しますが、「輿入れ道具に屏風」といえば、徳川家康が養女満天姫の輿入れ道具として用意した「関ケ原合戦図屏風」が思い出されます。満天姫は屏風を持参して弘前藩の津軽信枚(のぶひら)に嫁ぐわけです。

I:数ある『関ケ原合戦図屏風』の中で、もっとも古く、もっとも豪華だといわれる合戦図ですね。満天姫の前夫福島正之の父正則がしっかり描かれているという屛風でもあります。

A:『関ケ原合戦図屏風』は弘前藩津軽家で大切に伝来されて来ましたが、現在の所蔵先は大阪城博物館になります。そして、彰子入内の際に仕立てられた屏風ですが、惜しいことに、現代に伝来していません。いったいどのような屏風で、いつ散逸してしまったのだろうかとついつい考えてしまいます。

一帝二后という奇策。次ページに続きます

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