今後の首相を占う

A:歴史は時に「不可思議な政権スキーム」を生み出すようです。実は、現代にも「不可思議な政権スキームがある」と指摘するのは、元通産官僚(現在の経済産業省)で評論家の八幡和郎氏です。八幡氏は著書『日本の政治「解体新書」 世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書)で、「首相への近道は、代議士の父が早死にすること」と現代の政治スキームの問題点を指摘しています。

I:どういうことでしょう。

A:同書では、戦後の総理大臣の経歴を概観していますが時代に応じてだいたいの法則があるようです。戦後最初の総理大臣吉田茂は外務省出身で戦前は駐英大使なども務めていました。以降、佐藤栄作総理までの8人の総理のうち5人が官界出身でした。社会党の片山哲と自民党初代総裁の鳩山一郎が東大法学部出身の弁護士だったことを考えると、ジャーナリスト出身の石橋湛山のみが異色の総理だったということになります。

I:なるほど。

A:田中角栄以降の時代は、俗に「三角大福中」と称された派閥領袖(三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫、中曽根康弘)が総理の座を射止めました(大平正芳急死後の鈴木善幸を除く)。

I:「三角大福中」のうち、福田赳夫、大平正芳が大蔵官僚出身、中曽根康弘が内務省出身と「官界出身の総理」の需要は根強かったのですね。

A:その後、竹下登総理以降ですが、前出『日本の政治「解体新書」』では「混沌の時代」とくくっています。

I:宇野宗佑、海部俊樹、宮澤喜一、細川護熙、羽田孜、村山富市と続く時代ですね。確かに「混沌」という感じがします。

A:このうち、大蔵官僚出身で、池田勇人総理の側近を務め、なおかつ岳父の小川平吉が戦前に司法大臣、鉄道大臣を務めた有力議員という宮澤喜一は本来、官界出身主流の時代であってもおかしくない存在でした(佐藤栄作内閣退陣時点で55歳)。そうした混沌の時代に総理になった羽田孜が「首相への近道は、代議士の父が早死にすること」の法則の嚆矢となります。

I:なるほど。同書には「父・羽田武嗣郎(当選9回)。1969年66歳で病気引退。羽田孜1969年34歳で当選」とあります。

A:早死にではなく、父の病気引退ということですが、34歳で初当選した羽田孜は50歳で初入閣します。そして、「首相への近道は、代議士の父が早死にすること」が顕著になるのは、それ以降です。橋本龍太郎は、厚相、文相を歴任した父橋本龍伍が56歳で亡くなった翌年に26歳で初当選しました。同じ昭和38年、26歳での同期当選の小渕恵三も5年前に父小渕光平が54歳で亡くなっていました。

I:小泉純一郎は三世代議士ですが、父の小泉純也が65歳で亡くなった後の総選挙に30歳で当選しました(一度落選)。安倍晋三は28歳で父晋太郎が外相時の秘書官に任ぜられていましたが、1991年に父が67歳で亡くなった後の総選挙で38歳で初当選しています。

A:父が早死にしたことで若くして当選できたということですね。橋本龍太郎以降の自民党首相は9人いるわけですが、そのうち7人が世襲議員。うち、5人までが「代議士の父が早死にして(あるいは引退して)、若くして当選した世襲議員」です。

I:『光る君へ』劇中でクローズアップされた「自分の娘を天皇に入内させ、その娘が生んだ皇子が即位することで、外祖父として実権を握る」という摂関時代のスキームはやはり無理があるように思うのですが、それと同じように「首相への近道は、代議士の父が早死にすること」というスキームもやはり不可解に感じます。

A:現在の首相がまさにその法則通りの岸田文雄首相。元通産官僚で当選5回生だった岸田文武が1992年に65歳で亡くなった後に、35歳で初当選した三世議員なのですが、今後も「首相への近道は、代議士の父が早死にすること」の法則が当てはまる議員が複数います。例えば、2000年に62歳で亡くなった小渕恵三首相の後継者小渕優子が26歳で初当選して現在当選8回。2005年に68歳で引退(翌年没)した橋本龍太郎の後を26歳で継いだ橋本岳(現在、当選5回)。2009年に67歳で引退した小泉純一郎の後を28歳で継いだ小泉進次郎(当選5回)、さらに父岸信夫が63歳で病気引退して31歳で補選に当選した岸信千代もいます。

I:このうち小渕優子は2014年に40歳で経産相(2度目の入閣)、小泉進次郎は2019年に38歳で環境相と閣僚も経験済みですね。

A:今後も「首相への近道は、代議士の父が早死にすること」の法則から首相が輩出されるのでしょうか。八幡和郎さんに聞きました。

八幡:ポスト岸田の自民党の宰相候補たちを見ると、少し風向きが変わってきた気もします。小選挙区制になって、地盤がない人でも自民党の公認さえ取れたら若くても代議士になれるようになった。だから、相変わらず世襲も多いが実力派も増えてきた。そのなかで目立つのが、留学帰りですね。いまの50代から70代というのは、留学熱が盛んだった頃です。非世襲でいえば、茂木敏充、上川陽子、西村康稔、齋藤健、小林鷹之。世襲議員では、河野太郎、野田聖子、林芳正、福田達夫といったところです。

I:平安時代の摂関政治のスキームは、藤原家を外戚に持たない後三条天皇誕生から風向きが変わっていきました。現代政治はどのように展開していくのでしょうか。『光る君へ』が一週お休みだったので、完全番外編をお届けしました。

(文中敬称略)

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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