歴史的重大事件の発信源はあの花山院
I:道長に追い抜かれた傷心の伊周がお忍びで通っていたのが藤原為光(演・阪田マサノブ)の三の君光子(演・竹内夢)。為光の娘といえば、花山天皇に激しく愛された忯子(演・井上咲楽)の妹になります。
A:女性のもとに忍んで行くという貴族社会ではごくごくありふれた日常の出来事が歴史を突き動かす重大事件に発展することになります。
I:出家して退位していた花山院も忯子のことが忘れられなかったのか、忯子の妹にあたる女性のもとに通っていたんですね。
A:当欄でも何回か触れていますが、花山院が「母と娘」の両方の女性を愛したというエピソードは、実際には出家後のことになりますから、院は出家の身でありながら、あちらこちらの女性のもとを訪ねていたことになります。
I:花山院が通っていたのは、伊周が通っていた女性のさらに下の妹ですよね。にもかかわらず伊周は自分が通っていた三の君にほかの男性が忍んで来ていると勘違いするわけです。よくよく考えれば、三の君光子に妹がいるということは把握していたと思われますから、なぜ妹の四の君に通っている男性の牛車だと考えなかったのか不思議です。そんな判断もできない愚者だったということなのでしょうか。
A:まあ、色恋沙汰になると冷静な判断ができなくなるというのはままありますが、本件は、史上空前の「世紀の勘違い」ということになります。こんなことで歴史が動くとはまさに驚天動地。劇中では隆家が射た矢がある男性をかすめます。「イン、イン」という従者の声を聞き、隆家も伊周も瞬時に凍り付きます。
I:出家した花山法皇ですね。「世紀の勘違い」とその後の「激動」をどう描いてくるのか興味深いです。
A:めちゃくちゃ楽しみですね。そういえばこの事件から350年ほど経過した南北朝時代に同じような事件が勃発しています。足利家家臣の土岐頼遠(ときよりとお)が泥酔して京洛を移動中に光厳上皇を乗せた牛車に遭遇したそうです。本来であれば下馬して礼を尽くすところですが、頼遠は「院であるか、犬であるか、犬であれば射ってしまえ」と狼藉を働く事件を起こしました。合戦で功績の多かった土岐頼遠でしたが、なんと斬首の刑に処されます。
I:院に狼藉を働くということは大罪だったわけですね。さて、花山院に矢を射った、伊周、隆家兄弟はどうなるのでしょうか。そして、細かい描写ですが、道長が日記をつけはじめます。後に『御堂関白記』と称されるものですね 。久しぶりに小麻呂(演・ニモ)も登場してほっこりさせられましたね。
A:伊周がまたも墓穴を掘る事件。いったいどんな展開になるのでしょう。
※『小右記』の引用は、国文学研究資料館の「摂関期古記録データベース」より引用
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり