ライターI(以下I):『光る君へ』第19回では、清少納言(演・ファーストサマーウイカ)がまひろ(演・吉高由里子)を引き連れて宮中に参内し、中宮定子(演・高畑充希)に拝謁するという展開になりました。興味深かったのはまひろが鋲を踏むといういやがらせを受けた場面です。
編集者A(以下A):今、朝のNHKBSで2000年の朝ドラ『オードリー』が放送されています。『光る君へ』の脚本担当の大石静さんが手掛けた作品ですが、今週は映画の撮影所の大部屋俳優になった主人公が古株の俳優にいじめを受けるという展開になっています。1000年前から現代に至るまでこういうのはなくならないんだなと思ったりしています。
I:さて、まひろは清少納言が心酔する友だと紹介されました。実際にこんなことがあったのか? と思った人もいたかもしれません。しかも、たまたま定子に「会いたくなった」といってやって来た一条天皇(演・塩野瑛久)まで居合わせます。
A:皇子誕生を期すために白昼堂々、という場面にもなりました。それだけ「皇子誕生」が急務だったのでしょう。
A:この場面のポイントは、人の話をしっかり聞く帝であることを強調したことです。以前、一条天皇が『貞観政要』を引用する場面が描かれました。『貞観政要』は帝王学の教科書という感じの書物で、徳のある為政者の心構えとして、「人の話を聞く」ということを重視した記述もあります。
I:本来帝に簡単に拝謁できる位にないまひろの話に耳を傾け、白居易の『新楽府』について語り合いました。『新楽府』は、為政者は民衆の声を聞き、参考にすべきだということを、風刺を交えて漢詩にしたものです。まひろが宣孝から聞いた「宋には試験で優秀な人が登用される科挙という制度がある」と話題にしましたが、これは為政者であれば先刻承知のことだったと思います。ただ一条天皇は、そのことを指摘することなくうなずいて受け流しました。
A:まさに帝王らしい振る舞いでしたね。実際には遣唐使などを通じて大陸からさまざまな文物を受容した日本が、科挙の制度を知らなかったわけはないのですが、まひろにとっては新鮮な話題だったのでしょう。この描写を受けて、なぜ日本は科挙の制度を導入しなかったのか考えてみるのも一興かと思います。
I:まひろが『新楽府』を書写する場面が描かれましたが、この時代に藤原行成(演・渡辺大知)が写したものが一条天皇に献上されていました。英明だったと伝わる一条天皇を印象づけるいい場面になりました。
A:後々のことになりますが、『紫式部日記絵詞』には中宮彰子に『新楽府』を進講する紫式部の姿が描かれます。なんだかいろいろ連想されることが多くって、刺激的な脚本になっていますね。
A:『枕草子』ファンの方なら、清少納言がまひろを連れて来たシーンを見て「あれ?」と感じた方がいたかもしれません。まひろを宮中に入れるから内通疑惑をかけられるのだと。
I:『光る君へ』のおかげで『枕草子』を再読する楽しみが増えましたね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり