独居老人は不幸、孤独死は悲惨……、そんなイメージがあるかもしれませんが、老後の自由な時間をひとりで謳歌している人もたくさんいます。とはいえ、健康もお金も無限ではなく、不安が多いことも事実です。

遺品整理、生前整理などのプロである山村秀炯さんによると、老後のひとり暮らしを阻む壁は「お金」「健康」「心」「介護」「死後」の5つだとか。そして、この「壁」を上手に乗り越えられる人ほど、自分の生き方に納得していて、幸せに暮らしているそう。山村さんの著著『老後ひとり暮らしの壁 身近に頼る人がいない人のための解決策』(アスコム)では、山村さんが出会った“老後おひとり様”たちの具体例を挙げながら、立ちはだかる壁の対策法を解説しています。

夫や妻に先立たれたり、熟年離婚、こどもに頼る気はない……など、誰もが老後をひとりで暮らす可能性がある中、ぼんやりした不安を抱えている“老後おひとり様予備軍”にこそ、読んでいただきたい一冊です。「何かあったら、こうすればいい」とわかるだけで気が楽になるはずです。

今回は、「健康」「心」の壁との向き合い方についてご紹介します。

文/山村秀炯

孤立したひとり暮らしの死亡リスクは1.9 倍?

「孤独・孤立が寿命を縮める」といわれています。NHK健康チャンネルによれば、死亡リスクを増加させる要因として、肥満、過度の飲酒、喫煙などと並べて「孤立(社会とのつながりが少ない)」を挙げています。なんと、この4つの中で、「孤立」が最も死亡リスクを上げてしまうというのです。NHK健康チャンネルの元ネタになっているのは、アメリカのブリガムヤング大学のジュリアン・ホルト・ランスタッド教授による2015年の論文です。同教授は、148の研究、30万人以上のデータをメタ分析して、死亡リスクの上昇率は、「社会的孤立」で29%、「孤独感」で26%、「一人暮らし」で32%と結論付けました。社会的なつながりが少なくて、孤独感を感じていて、ひとり暮らしであると、そうでない人に比べて死亡リスクは約1.9倍になってしまうのです。

同教授の以前の論文では、孤独であることの死亡リスクは、「1日たばこを15本吸うことと同等」であり、「アルコール依存症であると同等」であり、「運動をしないことよりも高く」、「肥満の2倍高い」とされています。

出典:NHK健康チャンネル「孤立が健康のリスクに!? 社会とのつながりを保つ秘けつとは」
https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_1402.html

いちばん心を病みやすいのはひとり暮らし中高年男性

都内でメンタルクリニックを経営する精神科医・江越正敏先生によれば、独身または離婚した人は、結婚している人に比べて孤独スコアが高く、それはうつ病の発生確率と正の相関関係があるそうです。孤独スコアは性別、年齢、社会経済的地位とは無関係とされているのですが、一方では、女性より男性のほうが孤独感を感じやすいとする研究もあります。これは精神科医として様々な患者さんとお話する中での実感でもあるそうです。一般に、男性のほうが孤独について周囲に伝えることが苦手であり、男性が孤独であると周囲に助けを求めると、女性の場合よりも話を聞いてもらえなかったり、非難されやすかったりするからです。

みずほリサーチ&テクノロジーズが2022年に行った調査では、ひとり暮らし高齢男性の15%が「2週間内の会話が1回以下」だったとされています。これは女性の場合の3倍の割合です。ですから、独身でひとり暮らしの中高年男性は最も孤独を感じやすく、身体的にも精神的にも病みやすいと自覚しておいたほうがよいのです。女性に比べると、男性のおひとりさまはメンタルを病んでクリニックを受診する確率が圧倒的に多いそうです。

江越先生のクリニックで最もよく診るのは、未婚の独身男性。彼らは頭痛、腹痛、腰痛、あるいは胸が痛いとか、目が痛いなどの症状を訴えるのですが、原因は心にあります。心の奥では「結婚したいけどできない」ことに無自覚に悩んでいて、それを表立って口にできないために身体症状として表れてしまうのです。痛みがともなうので最初は内科を受診するものの、これといった原因が見つからず、不定愁訴として精神科を紹介されるパターンが多くあります。人間は不快なことを我慢し続けていると、コルチゾールが増えて、最終的に痛みや炎症が発生するようにできています。それが前頭葉の神経細胞を不活化させて、うつ病になるのではないかと考えられています。ですから、いま原因不明の痛みがあるという方は、それはもしかするとそれは「孤独感」からくるものかもしれません。もちろん女性であっても同じです。

入院時の身元引受人はいますか?

おひとりさまの悩みの典型は、健康を害したときの入院問題にあります。人間は、年を経るごとに身体が衰えていきます。個人差もありますし、肉体トレーニングによって健康を維持することもできますが、150歳を超えて生きている人がいないのと同じで、いつまでも健康で病気知らずという人はいません。厚生労働省の「患者調査(令和2年)」を調べると、患者の年齢が上がるに従って、平均入院日数が長くなっていく様子がきれいな右肩上がりで見て取れます。90歳以上となると、平均で1回あたり65.3日間も入院することになります。

しかし、入院はおひとりさまにとっては鬼門です。なぜならば、日本の病院のほとんどは、入院時に入院費用の支払いを担保する連帯保証人と、緊急時の身元引受人の記載を求めてきます。身元引受人(緊急時連絡先)というのは、万が一、病院内で亡くなってしまった場合などに遺体を引き取ってもらう人です。これが決まっていないと、病院には身元不明の遺体がどんどん溜まっていくようなことにもなりかねません。

通常、身元引受人は患者の同居人が記載されます。しかし、おひとりさまには同居人がいません。このような場合は、親きょうだいなど、別居している親族に身元引受人を頼むことになります。もちろん親族であれば、それくらいの頼みは引き受けてくれるでしょうが、厄介なのは死後に発生する手続きや儀式です。葬儀はどこでどのように行うのか、お骨を納める墓はどうするのか、遺品はどのように整理して誰が相続するのか、役所への手続きはどうするのかなど、問題が山積みです。おひとりさま本人はすでに亡くなっているので何もすることはないのですが、厚意で身元引受人になってくれた方に迷惑をかけてしまうのはあまり望ましくないでしょう。大切なのは、あらかじめ死後の処理を自分で考えて準備しておき、身元引受人に明確に伝えておくことです。

*  *  *

山村秀炯(やまむら・しゅうけい)
株式会社GoodService代表。
愛知県を中心に遺品整理、生前整理などの事業を行う中で、ひとり暮らしシニアのさまざまな問題に直面。親族や友人に頼れない、頼りたくない「おひとりさま」という生き方を尊重し、なおかつ不安やトラブルなく生きていくためのサポート事業を新たに立ち上げる。東海テレビ「スイッチ!」、名古屋テレビ「UP!」など、メディアへの出演・取材協力も多数。

 

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