貴族社会の出世について
I:藤原公任(演・町田啓太)らが、「出世論議」を交わす場面も興味深いものでした。公任の父頼忠(演・橋爪淳)は、藤原兼家(演・段田安則)の前任関白なんですよね。
A:公任の姉の遵子(演・中村静香)は円融天皇(演・坂東巳之助)の女御でしたが、同じ女御の詮子が先に皇子を生みます。これが後に一条天皇になり、外祖父の兼家が摂政・関白になったわけです。ところが円融天皇は、皇子を生んだ詮子ではなくて、遵子を中宮にするなど優遇していましたから、遵子が皇子をもうけていれば、頼忠が外祖父となり、公任が父のあとを継いで関白になったやもしれません。家族が入内して皇子を産むことが権力の源泉というのも現代的な感覚では理不尽極りないですよね。
I:という背景を踏まえて、劇中の公任の発言を聞くと、感慨深いですね。実際に皇子を産めなかった公任の家は、兼家一族の後塵を拝することになります。そうした人間模様を目の当たりにしているわけですから、伊周が妹の定子に対して、「皇子を産め、皇子を産め」と叫んでいたのには切実な思いが込められていたのですね。
A:そういえば、前週に伊周が定子に対して「素腹の中宮」という暴言を吐いていましたが、これはもともと公任の姉遵子に対して発せられた言葉です。そもそも「皇子を産め」といわれても、このとき一条天皇はまだ16歳。冷泉天皇が15歳で宗子内親王をもうけている例はありますが、まだまだ若く、これからという年齢でした。しかも、道隆が亡くなった後には、藤原公季の娘義子、藤原顕光(演・宮川一朗太)の娘元子などが相次いで入内することになりますから、伊周の焦りは尋常ではなかったのです。
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