道長さまにポッ……の倫子(演・黒木華)。(C)NHK

ライターI(以下I):『光る君へ』第8回では、藤原兼家(演・段田安則)が左大臣源雅信(演・益岡徹)に対して、三男道長(正妻時子所生の男子として三男/演・柄本佑)と倫子(演・黒木華)の縁談を持ち込みます。源倫子の父・源雅信は宇多天皇の孫という名門です。

編集者A(以下A):いわゆる賜姓源氏ですね。対する兼家の系統は俗に「藤原北家九条流」と称されますが、左大臣家と九条流の三男では、確かに不釣り合いととられてもしょうがない段階だったと思います。そもそも〈わしも三男だ!〉といっていた兼家の正室は、道隆(演・井浦新)、道兼(演・玉置玲央)、道長、詮子(演・吉田羊)らの生母である藤原時子(演・三石琴乃)。その父は、藤原北家でも傍流の「魚名流」藤原中正(なかまさ)。摂津守などを務めた中級貴族です。ですから劇中の段階の道長の妻に左大臣家の姫を望む描写に対して、源雅信がいささかの怒気を含んだ〈不承知〉と発するのは、身分違いだという意識の発露でもあることに留意したいと思います。ちなみに兼家のもうひとりの妻として登場している寧子(藤原道綱の母/演・財前直見)の父・藤原倫寧(ともやす)は陸奥、河内、丹波などの受領を歴任した受領層ですから、こちらもそれほど家格の高い妻ではありません。

I:当時、道長は右兵衛佐。確かにまだ高位ではないのですね。劇中では、源雅信がそういう話をしている最中に、愛猫小麻呂(演・ニモ)を探して、倫子がやってきます。その様子をみた母穆子(演・石野真子)に、「あなたは猫にしか興味がないの?」とたしなめられます。猫好きにとっては、思わず噴き出してしまうような台詞でしたが、左大臣家の姫が、猫の下僕と化している図はほほえましいですね……。

A:右大臣家三男道長との縁談を持ちかけられたことで倫子は、顔を赤らめてしまいます。ああ、意外にこんなことが実際にあったのだろうかと思わされますが、実際はどうだったのでしょう? 平安時代の歴史物語『栄花物語』によると、道長が倫子に自分の妻にしたいと懸想したと書かれています。

I:『栄花物語』というと作者は、劇中で倫子のサロンを仕切っている赤染衛門(演・凰稀かなめ)といわれている書物ですね。読み始めると面白くて癖になりそうな物語ですよね。

A:はい。同書によると、道長の意向を耳にした源雅信が「あな もの狂ほし。ことのほかや。誰か、ただ今さやうに口わき黄ばみたるぬしたち、出し入れてはみんとする(なんと愚かしいことよ。もってのほかのことぞ。誰がただ今、ああした青二才連中を婿にして出入りさせてなるものか)」と道長の思いを聞き入れなかったというのです。

I:『光る君へ』では「不承知である」と口角泡を飛ばして反対の意向を表明しましたが、この辺りはおおむね史実に沿った描写なのかもしれませんね。

A:そして、同書には、道長と倫子の縁談に反対していた源雅信を説得したのが、穆子だと描かれています。『栄花物語』には「時々物見などに出でて見るに、この君ただならず見ゆる君なり(時々、物見などに出かけて様子を見ておりますが、この君は普通の人とは思われません)」と、道長を評価して、縁談を進めるようアドバイスしたようです。

I:なるほど。後年、道長と倫子によって穆子の70歳のお祝いを盛大に行なったことが知られています。ふたりが結ばれたのは穆子の後押しがあったということであれば、納得ですね。このエピソード、いずれ描かれることになるのでしょうか。なんだか楽しみですね。

※『栄花物語』の原文、訳文は『新編 日本古典文学全集』当該巻からの引用になります。

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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