盗賊の正体は直秀
I:物語の序盤では、散楽の一員として、まひろとも印象的なつながりを見せていた直秀という人物ですが、その正体が判然としませんでした。打毬にも参加するなど、いったいこの人はどういう人物なのだろう? と思わせていましたが、右大臣家に盗賊として押し込んで、捕縛されてしまいました。
I:ちょっとびっくりな展開になりました。奪ったものを貧しい民に分け与える義賊的側面も描かれていましたが、盗賊は盗賊です。
A:当時、源満仲らの武士が兼家に従っていました。私は直秀捕縛の場面を見て、この武士の中には満仲の郎党らがいるのではないかと思いながら見ていました。
I:満仲というのは、子孫に源頼義、義家らがいて、鎌倉幕府を開いた源頼朝につながる清和源氏の祖ともいうべき人物ですね。『光る君へ』では源氏の武士らが登場するのでしょうか。さて、私は、まひろと直秀が、「丹後や播磨、筑紫でも暮らしたことがある」と都の外の世界には海があり、海の向こうには別の国があり、海や山で働く民がいて、商いに従事する商人がいることなど、まひろに語って聞かせる場面も印象に残りました。
A:当時の大部分の貴族たちが実際に見分したことのない光景でしょうね。そういう意味では、当時の貴族社会はものすごく狭い範囲での権力闘争だったことが浮き彫りになりますね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり