秋山竜次さん演じる藤原実資は要注意人物

なんでもできるスーパーマンだったという藤原実資(演・秋山竜次)。(C)NHK

I:藤原実資(演・秋山竜次)が、自邸で蹴鞠の練習をしながら、藤原義懐に官位を抜かされたことを、妻の桐子(演・中島亜梨沙)に愚痴っていました。実資は当代きっての人物で、蹴鞠に関しても「名人」と称されるほどの腕前だったそうです。劇中では桐子に「私にいわないで日記に書きなさいよ」とたしなめられていました(笑)。

A:わずかな尺で、実資の人となりを的確に「解説」する名場面になりました。実資の日記『小右記(しょうゆうき)』はこの時代の一級史料。劇中では「日記には書かぬ。書くにも値しない」と言っていましたが、この日記はわりと細かいことまで記している面白い日記で、道長(演・柄本佑)の歴史的な和歌を記録して後世に伝えた重要な日記でもあります。その藤原実資を当代きってのコント職人である秋山竜次さんが演じているわけです。

I:さりげなく、当時の貴族の最大の関心事が出世争いであることを描いてくれた場面でもありますね。実資の存在が際立ってくるのはまだまだこれからですから、ますます秋山さんの演技に注目が集まりますね。

道長とまひろの切ない恋の行方

公任(演・町田啓太)たちの話を偶然聞いてしまうまひろ(演・吉高由里子)。道長(演・柄本佑)は何も言っていないのに!(C)NHK

I:道長から「会いたい」という熱烈な恋の歌を送られて、返歌を送るのをためらっていたまひろ(演・吉高由里子)になんだか感情移入しちゃっています。

ちはやぶる神の斎垣も越えぬべし 恋しき人のみまくほしさに

「私は越えてはならない神社の垣根も踏み越えてしまいそうです。恋しいあなたにお逢いしたくて」という直球の和歌を送られて逡巡する姿が愛おしく感じられます。身分違いということもあるでしょうし、同じように藤原兼家からの和歌に返事を出し渋っていた『蜻蛉日記』の描写にも影響を受けていたのかもしれません。でも自分の本当の気持ちにも気づいていて、ほんとうにいじらしい……。

A:なるほど。

I:そうした中で、公任(演・町田啓太)の「身分違い」の話を耳にしてしまい、熱い思いに冷水をかけられた思いがしたのではないでしょうか。切ないですね。好きになった人との身分違いは重々承知しているけど、それを仲間うちで話しているのを聞いてしまうっていう。学園ドラマ的でもある展開ですが、ベタな分、普遍的とも言えるシチュエーションなんですよね。探しにいった小麻呂(こまろ/演・ニモ)のことなど忘れて、まひろは雨の中、駆け出してしまいました。私まで胸が張り裂けそうになってしまいました。

A:私は、小麻呂の行方もあわせて気になりました。はぐれた小麻呂はいったいどうなったのでしょう……。きっと世の猫好きは気になってしょうがない場面になったと思います。蛇足ですが、小麻呂も出演者クレジットを入れてほしいですね。源倫子の家族なわけですから。

I:それは賛成です。猫は家族、ですよね。

A:さて、この場面についてもうひとつ感じたことがあります。先程も述べた道長がまひろに送った和歌は『伊勢物語』にある「ちはやぶる神の斎垣も越えぬべし 大宮人の見まくほしさに」の本歌取りという設定かと思われます。この設定を見て、道長はゼロから1を生みだすクリエイターではなく、他人が生み出したものを広めていくプロデューサータイプなんだという印象を持ちました。

I:なるほど。ドラマだからあえて既存の歌をモチーフにしているのでしょうけれど、『源氏物語』が1000年読み継がれる作品になったのは、道長のプロデュース力によるものという読みですね。そのあたりがどう描かれるのか、ふたりの恋の行方とあわせて注目ですね。

A:一方で、藤原一族の権謀術数の描写も楽しみですね。こちらはサスペンス仕立てになるのでしょうか。

雨の中を走るまひろ。いろいろと切ない。(C)NHK

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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