数字や文字の羅列であるデータもビジュアル化されていると理解しやすいということは、よくありますよね。可視化されることで全体像を理解し、物事の本質も認識しやすくなります。日本では有名チェーン店の店舗数やコンビニの所在地といった身近なものから、少子高齢化や気候変動といった社会問題まで、さまざまなデータが公開されています。これらを可視化することで、今まで見えていなかった日本の姿が見えてきます。

今回は、地理や自然に関するデータをわかりやすく可視化し、講演会なども行なっているにゃんこそばさんの著書『ビジュアルでわかる日本 データに隠された真実』から、町を「ちょう」と読むか、「まち」と読むかを可視化したデータをご紹介。同じ地域なのに「ちょう」と「まち」が混在している理由がわかります。

文/にゃんこそば

「ちょう(町)」と「まち(町)」の違いから歴史をひも解く

地図を眺めていると、町の名前に「ちょう」と「まち」という2つの読み方があることに気づきます。例えば、東京都板橋区、中野区の本町は「ほんちょう」と読みますが、渋谷区の本町は「ほんまち」と読みます。

なぜ、同じ漢字でも読み方が違うのでしょうか?

「ちょう」と「まち」の読み方には、地域差や法則があるのでしょうか?

「町」という漢字は、もともとは「田」(水田)と「丁」(十字に切り分けられた土地)の合わせ文字で、農地などの境界を意味するものでしたが、日本では市街地やその一画を表す「まち」という言葉に当てられました。

図1は、全国743の町(地方自治体)を読み方によって塗り分けた地図です。

【図1 全国743の「町」(地方自治体)を読み方によって塗り分けた地図】
西日本と北海道では「ちょう」で終わる町が多い。

「ちょう」は西日本や北海道に多く、「まち」は東日本に多いことがわかります。

本州の真ん中、甲信地方には「ちょう」と「まち」の境目が見られます(図2)。

【図2 甲信地方に見られる「ちょう」と「まち」の境目】
同じ県の中にも長野県南部の阿南町(あなんちょう)、静岡県西部の森町(もりまち)などの例外がある。

長野県はほとんどの町を「まち」と読みますが、一つだけ「ちょう」と読む町があります。それは愛知県と隣接する阿南町です。阿南町が「ちょう」と読む理由については諸説ありますが、阿南町の勝野一成町長は東海テレビの取材に対して「(愛知の文化が)阿智川を境にして入ってきたんですよ」と答え、昭和初期に愛知県の林業指導者が、阿南でヒノキの植林を指導した、というエピソードを紹介しています(※)。

※: 東海テレビ『Your Scoop−“町”は「まち」か「ちょう」か…調査して分かった東日本、西日本での傾向 境界線らしき川が長野にあった』(https://www.tokai-tv.com/yourscoop/archive/000469.html

自治体名が「まち」で、ローカルな地名が「ちょう」というねじれ現象

今度は市区町村内のローカルな地名で「ちょう」と「まち」の違いを見てみましょう。図3~6は、「町」で終わる町、字(あざ)を読み方によって塗り分けた地図です。日本郵政がWebサイトで公開している「郵便番号データ」を元に分類したので、日本全国すべての地名が網羅されているわけではないことにご注意ください。

【図3 「 町」で終わる町、字(あざ)を読み方で塗り分けた地図(全国)】
自治体名と異なり、関東地方でも「ちょう」で終わる町が多い。
【図4 「 町」で終わる町、字(あざ)を読み方で塗り分けた地図(西日本)】
大阪、名古屋や広島などの大都市では、町名、大字名に「ちょう」と「まち」が混在。
【図5 「 町」で終わる町、字(あざ)を読み方で塗り分けた地図(中部〜東北南部)】
関東地方でも「ちょう」と「まち」が混在。隣県である福井県と石川県の違いが興味深い。
【図6 「 町」で終わる町、字(あざ)を読み方で塗り分けた地図(東北北部、北海道)】
北海道の自治体は、ほとんど「ちょう」で終わるが、町名単位では「まち」で終わるところも多い。

地方自治体の読み方と比べると、だいぶ違いがあることにお気づきでしょうか? 例えば、関東地方ではすべての地方自治体を「まち」と読みますが、町、字単位で見ると「ちょう」と読む地域が優勢です。

このような違いが生まれた背景の一つが、地名がつけられた時代です。例えば、江戸時代の東京(江戸)では、武家地を「まち」、町人地を「ちょう」と呼び分ける習慣があったため、当時から存在するローカルな地名には「まち」「ちょう」の両方の呼び方が混在しています。

また、1888年(明治21年)の市制、町村制の公布により市町村が設定されましたが、このときに江戸時代の「まち」と区別する意味で「ちょう」という呼び名が現れ始めました。町の呼び名が決まった経緯については、史料が残されていない地域も多いのですが、まわりの地域に合わせたり、語呂や読みやすさを重視して呼び名を決めたり……といったことが行われたために、結果として、ローカルな地名と自治体名称との間に、呼び名のねじれが生じてしまったと考えられています。

「ちょう」と「まち」の読み方には地域性が大きく、一般的な法則性を見出すのは難しいのですが、地図にして俯瞰(ふかん)することで、各地方の傾向を把握することができました。興味を持たれた方は、ぜひ地元の町の郷土史をひも解いてみてはいかがでしょうか?

参考:日本郵便株式会社『郵便番号データダウンロード』(2023年7月)(https://www.post.japanpost.jp/zipcode/download.html

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ビジュアルでわかる日本 データに隠された真実
著者/にゃんこそば 監修/宮路秀作
SBクリエイティブ 1,870円

にゃんこそば
東京都生まれ、神奈川県育ち。データ可視化職人。民間企業でクラウドサービスの企画、開発やビッグデータ利活用に従事するかたわら、個人活動としてオープンデータや公的統計の可視化、地図アプリの作成に注力し、日本や世界の「今」が一目でわかる作品を多数公開している。主な活動歴は国土交通省『3D都市モデルの整備・活用促進に関する検討分科会』など。X(旧Twitter)のアカウント名は「にゃんこそば@ShinagawaJP」(約6.6万人フォロワー)。TV、新聞、ネットメディアでの取材歴多数。

 

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