まひろ(演・吉高由里子)にとって話ができる良いおじさん、宣孝を演じる佐々木蔵之介さん。(C)NHK

ライターI(以下I):『麒麟がくる』で豊臣秀吉を演じた佐々木蔵之介さんが、大河ドラマに帰って来てくれました。

編集者A(以下A):佐々木蔵之介さんといえば朝ドラ『オードリー』(2000年)が出世作。同作の脚本を担当したのが『光る君へ』の脚本を執筆している大石静さんです。大石さんが大河の脚本を担当されるということで、「いざ、鎌倉」的に佐々木蔵之介さんも参陣したのか、と想像すると、かつて『オードリー』を視聴していた身としては、涙が出るほどにとてもとても感慨深いのですよ。

I:なるほど。そんなものですかね。さて、佐々木蔵之介さん演じる藤原宣孝は、劇中ですでに描かれた通り、ドラマの主人公まひろ(紫式部/演・吉高由里子)の「裳着」の儀式で腰結の大役を務めるなど、まひろの父藤原為時(演・岸谷五朗)一家との深い交流が描かれます。宣孝は、為時とはいとこ同士で、年頃も似ていて仲が良いという設定です。才能があるのに愚直でなかなか官職にありつけない為時に対して、宣孝は明るくて調子が良い男です。

A:ネタばれと言えばネタばれですが、史実なので言及しますと、藤原宣孝は、将来、まひろこと紫式部の夫となる人物です。ただし、当時は一夫多妻制で、紫式部は側室のひとりに過ぎませんでした。

I:宣孝については、同時代の女性である清少納言が『枕草子』の中でその性格の一端が垣間見えるエピソードを伝えています。

A:はい。当時、大和吉野の金峯山に詣でる御嶽詣が流行していました。かの道長も、今となっては国宝に指定されている直筆日記『御堂関白記』に自身の御嶽詣の様子を書いています。宣孝も御嶽詣に出かけるのですが、普通はどんな高貴な人でも質素な装いで金峯山に参るのに、宣孝は「(金峯山の)権現様は質素な身なりで参れなどと言わないだろう」と言って、あえて派手な格好で参拝したというのです。周りの人たちはみんな呆れていたけれど、その後、宣孝は出世して筑前守に任官されたということで、宣孝の言ったことは本当だった、と話題になった、という話です。

I:佐々木蔵之介さんも、このエピソードをご存知で、宣孝の役作りに活かしたようです。コメントをどうぞ。

この藤原宣孝という役をどう作ろうかなと思った時に、もちろん台本を基本として演じているんですが、資料となる本などもいろいろと読みました。そこに登場する宣孝という人物は、なんだか非常におもしろい人だなと感じました。かわいげがあって、楽しい人だったんじゃないかなと。芝居っけがあるというか。ああ、この人は要するに陽な感じの愉快な人間でありたいな、人を温かくするような人間でありたいな、と思って役作りをしていますね。

A:役づくりが深いですね。『枕草子』のエピソードをじっくりかみ砕いて構築された「宣孝像」。ちょっと今後の見方も変わってきますね。

I:佐々木蔵之介さんのお話は、まひろ一家のことに続きます。

宣孝にとっては、こんな美しい家族はいないくらいに思っているんだと思うんです。しかし、ある事件で妻であり、母を失った家族。為時、まひろ、そして弟の太郎(演・高杉真宙)、養育係のいと(演・信川清順)に対してまでも、この家族がなんとか幸せであって欲しい、不自由なく暮らしてほしいと思って、サポートといったら僭越なんですが、支えてあげたいという思いが宣孝の中にあるのかなと思っています。

A:今の時点ではまだ、お互いを男女としては見ていないかもしれませんが、宣孝にとってはまひろは気になる存在になりつつある印象ではあります。

まひろは、女性である、男性であるといったことは関係ない人なんですよね。彼女の思想は非常に自由であり、漢文も読めて漢詩もできて、非常に柔軟な思想を持っているということが宣孝にはわかる。宣孝もわりと自由な人間なんですが、親戚のおじさんということで、父や兄弟には言えないことを、聞いてやろう、大人として、理解してやろうという風に思っているんじゃないかな。「今日のことは父上には言わぬゆえ、あの男(道長)には近づくな」と言いながらも、最初に会った時には「随分大胆なことをしておるな」と言ったりして、頭ごなしに否定はしていないんですよね。逆に言えば、ちょっと評価している。おもしろいことをやっとるな、でもまぁ、ちょっと、まぁまぁまぁ、っていう。まひろの考えや行動をちゃんと広く受け止めて、包括的にしてあげて、こちら側にサポート、こちら側にディレクションしてあげようとしながらも、でも彼女はそうしたことがきかないこともわかっている……。優しく、柔らかくまひろを見守ってあげていたいなと思っているんだと感じています。

I:まひろの心には今はまだ道長(演・柄本佑)ひとりしかいませんが、今度、親子ほど年の離れた宣孝がまひろの恋路にどう絡んでくるのか、わくわくです。月刊誌『サライ』2月号にも佐々木蔵之介さんのインタビューが掲載されていますので、ぜひ読んでみてください。

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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