女流歌人としても知られる高階貴子を演じる板谷由夏さん。(C)NHK

ライターI(以下I):『光る君へ』には、紫式部(まひろ/演・吉高由里子)や第3回に登場した赤染衛門(演・凰稀かなめ)など、後の世に編纂された『小倉百人一首』に選定されている歌人が何人か登場しますが、道長(演・柄本佑)の兄道隆(演・井浦新)の妻もそのひとりなんですよね。

編集者A(以下A):『小倉百人一首』では儀同三司母として知られる高階貴子(道隆妻/演・板谷由夏)ですね。漢才や詩歌の才があるといわれた女性で、身分はさほど高くはなかったものの、道隆に嫁したことで、後に関白の妻にして中宮の母となる人物です。

ライターI:演じる板谷由夏さんの気品ある佇まいが、賢妻貴子にぴったりだなと思ってみていましたが、第3回ではしっかりと娘を育てる賢母としての姿も描かれていました。今回は貴子役の板谷さんからコメントが届いています。

貴子は教育熱心で、現代の女性のような要素や感覚を持ち合わせている気がします。夫を立てなければならないとわかっているし、子供のこともきちんと教育できる。脚本を読んでいても、よくできた人だなと思います。貴子について探れば探るほど、漢詩が読めるなど、博識だなと感じます。自分が自信を持てるように勉強したんじゃないかなと想像します。勉強する意志の強さと、男性にも負けたくない、男性には屈しないという気持ちの強さが垣間見えます。でも、この時代の女性ですから、夫の道隆を愛しているし、夫を立てたいという気持ちもあるんですよね。

A:第3回では、幼い定子(後の一条天皇の皇后)が転んで泣き、母である貴子が自分で立ちなさいと言う場面がありました。

かわいい子には旅をさせろといいますが、親にとってはなかなかできることではないですよね。つい、甘やかしたり、手を差し伸べたりしてしまうものだと思うんです。でも貴子はビシッと言える。手強いな貴子、と思いました(笑)。自分の友達にこういう人がいたら、すごいな、って思うかもしれません。

I:ドラマの中では、夫道隆とも仲良しですよね。一緒に笛を吹いたり琴を弾いたりして、雅で素敵な夫婦です。

道隆殿とは理想の夫婦です。貴子は縁の下の力持ち。心の中では、夫を摂政・関白にしたいという欲もあるはず。自分が何をしてあげれば、夫が上り詰めていけるのか考えていると思うんですよね。そうやって夫を立てつつ、ちゃんと裏で考えているのは私よ、という思いを密かに持っている気がします。夫だけではなく、妻である自分も一緒になって娘を(将来は帝の妻にしたい)と考えるくらいですからね。昔の人はやはり、自分の子供を嫁がせることで自分の地位を上げていったわけで、すごい策士だなと思います。

道長(演・柄本佑)の兄道隆を演じる井浦新さん。(C)NHK

A:良妻賢母で策士とあっては、道隆も頭が上がらなかったかもしれませんね。さて、その道隆役の井浦新さんからも、返歌のようにコメントが届いています。妻の貴子やふたりの夫婦関係について、井浦さんの考えを聞いてみましょう。

この時代、女性はある意味フィクサー。裏でしっかりと家を支え、夫を支えていたと思います。もしかしたら、ちょっと策士みたいなところがあったかもしれない。いろんなことに思いを巡らせ、いろんなことを先に張り巡らせ、夫が進むべき道を進みやすいようにしたり……貴子は、まっすぐ進もうとする夫道隆の前方をいつも照らしているような妻に感じています。道隆が引っ張っていくというよりも、ふたりはフェアな関係。道隆は深く貴子を愛しているし、道隆の全てを受け入れてくれる貴子さん、という関係性ができていて、いい夫婦だなと感じています。

I:道隆というと、権力闘争の真っただ中の人というイメージがありましたが、『光る君へ』の中では、育ちが良くて穏やかな紳士みたいです。井浦さんが演じるからそうなるのかもしれませんが。井浦さん自身は道隆をどう見ているのでしょう。

『枕草子』や『大鏡』といった古典の中から探っていった藤原道隆像と、今演じている道隆像はもっと、だいぶ大きくなってきていると思います。最初はもっと、豪傑というか、力強い長男として、三兄弟を引っ張っていくイメージがあったのですけれども、監督方と話し合ったり、脚本家の大石静さんの考えに触れたりして、「いい感じのお坊ちゃんの長男」という雰囲気もあるけど、押しは強く、それでいて優しくて、いつも兄弟たちを見守っているなという感じになってきました。年齢もまだ、20代半ばから30代の段階なので、今後いろいろと変わっていく可能性はありますが、今の時点では、いつも優しく家族を見つめて、絶対的な父親に対して、おそらく兄弟の中でも一番敬意を払いながらも、もしかしたら一番恐れおののいているのかもしれない。でも、そんな父のようになりたいとも思っているような道隆を作れているのではないかと思います。

I:さて今回はもうひとり、最近、体調がすぐれない様子の円融天皇を演じる坂東巳之助さんもコメントを寄せてくれています。

今回私が演じている円融天皇に限らずですが、やはりこの時代に生きた、そしてことさら位の高い場所に生まれてきた方の心や気持ちというのは、なかなか現代的な感覚で捉えることは難しいところがあると思っています。本当の意味での公私混同というか、プライベートと仕事との区切りが、感覚的にない時代だと思うのですが、その中で、ひとりの人として感情も考えももちろんあるのではないでしょうか。現代の方々にご覧いただく作品になりますから、どこまで表現として現代的というところに落とし込んでいくのかなというのは、演出の方ともご相談させて頂きながら仕上げていく感覚ですが、なかなか円融天皇がどういう人柄かというと、いろいろなことが絡み合った結果のこの人物だと思うので……。真面目な部分ももちろんあるし、きっと自分勝手な部分もあったんだとは思いますし、一言ではなかなか表現できないですね。ただ、重圧というのはあったと思う、といったようなことを簡単には言えないというか、むしろそれを重圧とも思っていないような生き方を強いられていたんだと思うんです。

A:ドラマの中では、あえて兼家(演・段田安則)のいいようにはさせまいという思いから、入内して子まで産んだ兼家の娘詮子(演・吉田羊)を遠ざけているんですよね。傀儡(かいらい)にはならないぞという思いがあったのでしょう。それが重圧にもなっていたのかもしれませんね。

I:それにしてもさすが歌舞伎俳優、気品があって天皇役がハマっていますね。

基本的には、天皇だとか位の高い人はあまり肌を見せないんですよね。足は長袴をはいているから出ないんですが、手をなるべく見えないようにするとかいったことは意識しました。そういうのは歌舞伎のルールを持ち込んでも違和感なく、映像の中で、位だとか品位につながるところかなと思って演じさせて頂いています。

A:これからどんどん、円融天皇や道隆は権力闘争の渦に巻き込まれていくことになると思います。どんなドラマが待ち受けているか、楽しみにしていたいと思います。

最近、「なぜか」体調不良の円融天皇を演じる坂東巳之助さん。(C)NHK

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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