本心を明かした秀頼(演・作間龍斗)。(C)NHK

ライターI(以下I):大坂冬の陣が戦われたのは慶長19年(1614)。織田信長(演・岡田准一)が明智光秀(演・酒向芳)に討たれてから32年の歳月が流れていました。2023年を基点にすると32年前は1991年。その頃は携帯電話の普及もまだという時代でした。

編集者A(以下A):「織田が搗き 羽柴がこねし天下餅  すわりしままに食うは徳川」という狂歌があります。織田と豊臣が作った「天下餅」を家康が座ったままで食したということですが、『どうする家康』で見てきたように、実際は家康(演・松本潤)も若いころから合戦に次ぐ合戦という日々に身を投じていました。

I:「座りしままに」というのは家康がかわいそうだということですね。

I:その家康ですが、当初は徳川と豊臣の共存の道を模索したかに見えましたが、最後はなりふり構わず天下を手繰り寄せにいった形になりました。方広寺(当時は寺号はなかったが便宜上こう呼ぶ)の梵鐘の銘文「国家安康」が、家康の諱を分裂させているということでしたが、当の梵鐘は溶かされることなく今日まで遺されているというのが不思議といえば不思議ですよね。

A:家康は関ヶ原合戦の際も石田三成(演・中村七之助)こそ処刑しましたが、弘前藩に逃れた次男重成のことを黙認しています。藤田達生教授の著書『戦国秘史秘伝』に詳述されていますが、三成息女の辰姫は弘前藩二代藩主津軽信枚(のぶひら)の正室(後に家康養女満天姫が正室となったため側室に)になっていますからね。合戦に勝利したのだから梵鐘などどうでもよいと鷹揚だったのでしょう。

破壊力抜群だった大筒

菓子で初(演・鈴木杏)を篭絡しようとする阿茶(演・松本若菜)。(C)NHK

I:家康が用いた大筒はその強力な砲声、直撃した建物を損壊する破壊力で大坂方、特に茶々(演・北川景子)などに戦意消失をもたらしたようですね。

A:前回徳川家康が大河ドラマ主人公になった昭和58年に刊行された中公新書『大坂の陣  証言・史上最大の攻防戦』(二木謙一著)を書棚から抜いてきました。そこには、家康が用いた大筒について京の公家が〈大坂表の鉄砲洛中に響く〉という記述を残していたことや、醍醐寺座主の義演が、砲声を聞く会が茶の湯の席で設けられたということを紹介しています。

I:大坂の砲声が洛中まで響いたとはにわかには信じ難いですが、それだけ砲声音が強烈だったということですよね。

A:すぐさま和議に向けた交渉が始まりますが、ここで特筆すべきは和議の交渉が阿茶(演・松本若菜)と浅井三姉妹の真ん中で、京極高次に嫁いでいた初(常高院/演・鈴木杏)が選ばれた点です。

I:天下の行方を左右する合戦の和議交渉が女性に委ねられたというのは興味深いですね。豊臣側の初は、茶々の妹で徳川秀忠(演・森崎ウィン)の正室江(演・マイコ)の姉になりますね。

A:一方の阿茶は家康の側室なのですが、一度流産した後は子はなしていません。小牧・長久手の戦いなど合戦にも参加していたといわれていますから単に側室ということではなく、重要な側近という位置づけだったのではないでしょうか。

I:こうして和議が結ばれることになったのですが、大坂城の堀の埋め方などで騒動になります。外堀の惣堀を埋めるという取り決めだったのが、徳川方が「惣」というのは堀のすべてのことであるということで、結局大坂城本丸が丸裸にされるという流れになったというのが古くから伝えられた定説でした。

A:徳川が豊臣を騙したとも取れますからね。ただ実際には最初からすべての堀を埋めてしまうという取り決めだったともいわれています。劇中でも「また掘り返せばいい」みたいな台詞がありましたがそういう発想ですね。とにかく大坂方は「家康の寿命が尽きるのを待ち、家康がいなければ勝機は秀頼にあり」と考えていたのでしょう。

I:ところで、初、江が上洛し、さらには大坂に茶々と秀頼を訪ねていくという場面が登場しました。

A:この時期、江が大坂に来るというのは、さすがにフィクションなのでしょうが、三姉妹が揃えば絵になりますからね。ここは了としましょう。

I:茶々は初に、阿茶との交渉の際にお菓子に騙されるなということを言っていました。

A:高坏に盛られたお菓子がずらっと並べられていて壮観で笑ってしまいました。

I:いろんなお菓子が並んでいましたが、どんなお菓子なのかよくわかりませんでした。昔のお菓子に興味がある私としてはもっとよく見たかったです。本作の前半でコンペイト(金平糖)が登場していましたが、海外から多くの菓子が入ってきて、日本の菓子文化が豊かになってきた時代ですね。

憧れが憎しみに向かった瞬間

I:家康の前で、初と江のふたりが、姉茶々の秘めたエピソードを明かしました。

A:横溝正史の小説を映画化した『犬神家の一族』で、長女松子、二女竹子、三女梅子の三姉妹がいて、父と妾にまつわる秘密を竹子と梅子が述懐するという場面を思い出してしまいました。

I:……。さて、江は、茶々には憧れの君がいた、という話をはじめます。子供の頃のお市の方が家康に恋心を抱いていたということ、その子である茶々も家康に憧れを抱いていたこと、柴田勝家と秀吉の争いの時に家康が援軍に来てくれると信じていたこと……。ああ、そういえばそんなこともあったなと感慨深い思いでした。

A:本能寺の変の時に茶々が家康の無事を念じていましたが、「12歳」というクレジットが出ました。ああ、それだけの歳月が流れたんだな、と改めて感じ入りました。

A:人生を振り返った時に、同じような甘酸っぱい思い出がよみがえるという人は多いのではないでしょうか。

I:一方で、「憧れは深い憎しみに変わった」という言葉に心が震えた人もいたと思いますね。30年ほど前のことを振り返ったわけですが、憎しみが続いていたんですね。

家康が茶々に送った書状に込められた思い。次ページに続きます

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