三成(演・中村七之助)と家康(演・松本潤)、最後の対峙。(C)NHK

編集者A(以下A):『どうする家康』第43回では、天下分け目の合戦として有名な関ヶ原合戦が描かれました。関ヶ原は、古代の壬申の乱(672年)でも戦場になった「決戦の場」です。

ライターI(以下I):何か「磁力」のようなものを発しているのでしょうか、関ヶ原は。

A:日本で有名な古戦場といえば、源平最後の戦いの舞台になった壇ノ浦(山口県)、織田信長が今川義元を討った桶狭間(愛知県)、武田信玄と上杉謙信が雌雄を決した川中島(長野県)、織田・徳川連合軍が武田軍を打ち破った長篠・設楽原(愛知県)、さらに家康関係でいえば、姉川、金ヶ崎、三方ヶ原など数多ありますが、関ヶ原ほど心躍る古戦場があるでしょうか。

I:確かにほかの古戦場とは少し雰囲気が異なる印象です。

A:東西、それぞれの武将が陣を敷いた場所には、幟が立ち、訪れる人の心を揺さぶってくれます。家康が陣を敷いた桃配山、石田三成が陣を敷いた笹尾山、小早川秀秋の松尾山。「こんなに距離があるんだー」と書物や地図で見ていたイメージとは異なるスケールに、わくわくさせられました。子供のころに関ヶ原の布陣図を見たドイツ陸軍のメッケル少佐が「西軍の勝ちだ」といったという、現在では否定されているエピソードにもわくわくした記憶がよみがえります。

I:劇中で家康(演・松本潤)が着用していた具足は「歯朶(しだ)具足」といって、現在も静岡市の久能山東照宮に伝来しています。同じく久能山東照宮蔵の家康の金扇馬標も戦場に掲げられていました。

A:400年以上前に実際に戦場で着用した具足などが残されているのは、さすが神君というところではないでしょうか。

I:さて、ここでは、吉川広家(演・井上賢嗣)という人物に焦点をあてたいと思います。

1997年の大河ドラマ『毛利元就』では、毛利元就の次男元春を松重豊さんが演じましたが、吉川広家は元春の三男になります。大坂城に入った毛利輝元(演・吹越満)とは従兄弟で、小早川隆景の養子になった小早川秀秋(演・嘉島陸)も系譜上は従兄弟になります。

A:毛利家と徳川家をつないだのは吉川広家だといわれています。条件は毛利領の安堵。家康もいったんはその条件をのみます。このあたりが関ヶ原合戦をめぐる人間模様の面白いところですね。家康はほんとうに毛利領安堵を考えていたのかどうか。西国に百万石以上の大大名を残すというのは考えにくいので、どっちに転んでも家康は勝利の暁には毛利を改易しようと目論んでいたのではないでしょうか。

I:毛利領安堵を目論んだ吉川広家ですが、策士策に溺れるとでもいうのでしょうか。結局、毛利は大減封ということになりました。

A:いずれにしても、日本の進路が、小早川秀秋という、こんにちでいえば高校生くらいの年齢の武将の判断に左右されたということが面白いですよね。秀秋が生まれたのは本能寺の変があった年ですよ。そんな若造が天下分け目の合戦の雌雄を決したのです。

A:小早川秀秋は秀吉(演・ムロツヨシ)の正室寧々(演・和久井映見)の実兄木下家定の五男。兄らは、備中足守藩や豊後日出藩の藩主となり、幕末まで家名を保ちます。以前もお話しましたが、私は小早川秀秋が家康の陣に攻め込むシーンを一度見てみたいんですよね。もちろんそれがタブーであることは承知のうえです。もし、関ヶ原で家康が敗れていたら、この国の歴史はどう変わったのだろうと。

I:そして私が面白いと思うのは、関ヶ原で西軍について減封された毛利、そしてごたごたの末、減封を免れた島津が約260年後に徳川打倒の先頭に立つことです。

A:このとき毛利、島津を取り潰しておけばよかった――ということでしょうか。歴史は本当に面白いですね。きっと今も取るに足らない人物が世を動かし、あの時失脚させておけばよかったという人間が復権していたりするのでしょう。

若き小早川秀秋(演・嘉島陸)。(C)NHK

VFXかロケか――。天下分け目の関ヶ原

I:さて、今回描かれた関ヶ原合戦は、本作で多用されたVFX(ビジュアルエフェクツ)での撮影になりました。

A:当欄では、「やがて大がかりな戦国合戦絵巻に到達する前の試金石を楽しもう」という趣旨の主張を繰り返してきました。ただ、天下分け目の関ヶ原合戦までVFXになるとは想像していませんでした。

I:信長役の岡田准一さんの馬を駆った富士遊覧の回はしっかりとロケでしたしね。

A:今回の関ヶ原は、「最新の映像技術で展開される戦国合戦の現在地」ということで、深く記憶に刻んでおいてほしいと思います。技術をブラッシュアップしていくことで、数年後に「ここまで進歩したか」と視聴者を驚愕させることになるのか、「やっぱり合戦シーンは、ロケがいいよね」というふうになるのか……。

I:視聴者の方々はどう受け止めたでしょうか。私は全編VFXで通すのであれば、これもまたよしと感じました。ただ、先ほども触れた通り、富士遊覧の回などはロケ映像でしたから、まだロケの方がいいかな、とも思ったりもしています。

A:私は、いずれ「こんな凄い戦国合戦絵巻が!」という展開になることを期待しているので、「さらに頑張れ!」という思いです。

茶々迫力渾身の演技が凄い! 次ページに続きます

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