野ざらしでおおよそ100年放置された東大寺大仏

I:さて、ということで『どうする家康』第45回に登場した大仏は豊臣秀頼による2代目ということになり、「国家安康」「君臣豊楽」は、同時に鋳造された梵鐘の銘文になります。

A:先程もいいましたが、秀吉は全国の諸将に巨木を献上するように命令したために、全国の巨木が大量に伐採されて資材難に陥ったそうです。これによって何が起きたかというと、五代将軍徳川綱吉の時代に行なわれた東大寺大仏殿復興に影響したといいます。歴史って面白いなと思うのは、このせいで、徳川綱吉の時代に再建された大仏殿は天平、鎌倉の時代の大仏殿よりも規模の縮小を余儀なくされたというわけです。

I:綱吉時代の東大寺再建が完了したのが1708年。実は私は、明暦の大火(1657)で焼失した江戸城天守閣の再建計画にも影響したのではないかと思ったりしています。

A:なるほど。明暦の大火で江戸城天守閣は焼失し、以後再建されることはありませんでした。第4代将軍徳川家綱の補佐役を務めた保科正之(第2代将軍秀忠の子)が、大火に見舞われた江戸の復興を優先するために天守閣の再建を断念したといわれていますが、天守閣再建のための巨木供給難も影響したのではないかということですね。

大林組プロジェクトチームの復元調査

I:松永弾正らの合戦の影響で、東大寺大仏殿が消失してから100年以上、野ざらしにされたといいますね。

A:なんだか感慨深いですね。生類憐みの令で悪名高い将軍綱吉ですが、『どうする家康』第44回で本多正純が発した朱子学振興を強化した存在でもあります。さて、数年前に大林組のプロジェクトチームが秀吉時代の方広寺大仏及び大仏殿の復元についての調査結果を発表しています。関東住みで歴史好きの私からすれば、大阪万博もいいけれども、秀吉時代の大仏と大仏殿の再建にもチャレンジしてほしいと思ったりします。

I:大林組プロジェクトチームの論考はネットで読むことができますので興味のある方は閲覧いただきたいですね。私が粋だなと思うのは、具体的に復元のための詳細な調査をしているのに、もし現代に復元したらいくらかかるのか、という点に言及していないことです。

A:なるほど。歴史ロマンはロマンのままでいいという発想ですね。でも私は実現できるのであれば、再建してほしいなとも思います。そして、歴史的な流れを深掘りしたいという方には、奈良大学の河内将芳教授の近著『秀吉没後の豊臣と徳川  京都・東山大仏の変遷から』(淡交社)を参照してほしいと思います。この問題の研究の第一人者による力作です。

「家康」の名を裂いた、と解釈された方広寺の鐘の銘文。(C)NHK

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。

●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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