ライターI(以下I):武田、徳川だけではなく上杉、北条、今川さらには奥州の伊達などをまとめて、戦のない慈愛の国を築こうという瀬名(演・有村架純)のユートピア構想。劇中では、今川氏真(演・溝端淳平)・糸(演・志田未来)夫婦や、於大(演・松嶋菜々子)・久松長家(演・リリー・フランキー)も瀬名の意見に賛同しました。
編集者A(以下A):唐の国の医師滅敬(めっけい)と名乗る穴山信君(演・田辺誠一)が武田側にも働きかけたのでしょう。一時は武田と徳川が鉄砲を空打ちする偽装合戦を展開する流れになりましたが、勝頼が翻意したため結果的に信長に露見したというところで今週を迎えているわけです。
I:なんとも切ない流れになりましたが、今週冒頭では、瀬名が茶を点てるシーンから始まりました。このころはまだ「利休以前」で流派などないですが、今でいう表千家の点て方みたいに見えました。が、たぶん当時は今のような茶葉の保存状態や挽き方ではないので、裏千家みたいにふんわりとした点て方にはならないんだろうな、と思って見ていました。
A:なるほどさすがお茶に詳しいですね。
I:……。
雨中で信長に跪く家康
A:さて、仮に勝頼が翻意しなければどうなったか? あれだけ築山に大勢の人が集まったり、空打ちの合戦をしていたら、密偵など忍びの人間の目に止まったでしょうから、遠からず露見したのかもしれません。
I:いずれにしても事が露見し、家康(演・松本潤)は信長(演・岡田准一)の面前でひれ伏していました。雨中にずぶ濡れになりながらです。 絵面(えづら)としてはけっこう衝撃的なものになりました。
A:この頃の家康は、三河・遠江二か国を領する太守ですからね。「ずぶ濡れの平伏」は、藤吉郎が柴田勝家に蹴られるシーン以上に衝撃的でした。それもこれも家康も「謀」に加担していたわけですから、しょうがないです。本来であれば首を斬られるか、切腹になってもおかしくない。ところが、信長は〈家中で決めよ〉とだけ命じ、家康は助かりました。信長も弟を手にかけて家督を掌握しました。武田信玄は父信虎を追放し、嫡男義信を自害に追い込んでいます。自分の家のことは自分で決めよというのは説得力ありますね。
I:面白かったのは、瀬名が、五徳(演・久保史緒里)に対して、自分と信康の非道を信長に訴える書状を書けと勧めたことです。実際にあったかどうかはともかく、瀬名(築山殿)と信康の「悪行十二カ条」を訴える書状があったといわれていますから、着地点は通説に近づけるような配慮がなされていました。
A:なるほど、そうきましたか、という印象です。立ち位置が異なると同じ事象でも物事が違って見えるということを、うまく利用していますね。
本当に信長を騙しきれると思ったのか?
I:ここで家康が一計を案じます。瀬名と信康を処断すると見せかけて、密かに生かしていこうという手法です。そんなことがまかり通るのでしょうか。
A:まあ、皆が口裏を合わせればなんとかなったのではないでしょうか。首にしても源義経の首は平泉から43日間かけて鎌倉に届いたといわれています。塩漬けにしていたとはいえ、首実検ができただろうかと指摘されていますから、なんだかんだ理由をつければなんとかなったのではと思ったりもします。
I:なるほど。ところが、ここで大鼠(演・松本まりか)が「大失態」を犯します。こともあろうに瀬名の身代わりとして連れてきた女性を瀬名に会わせてしまったのです。怯える女性を見て、瀬名は達観したのかどうしたのか、その女性を逃がします。本作では、徹頭徹尾「善玉瀬名」でしたから、やっぱりこうなりますよね。それがわかっていても感動する場面でした。
A:〈織田方の密偵が見ているやも〉という台詞が鳥居彦右衛門(演・音尾琢真)から飛び出しました。以前にも言いましたが、彦右衛門が出てくるだけで、うるうるしてきますね。
【そして、瀬名と信康の死……。次ページに続きます】