巨星墜つ。その死に隠されたものとは
I:石田三成(演・中村七之助)と家康のやり取りというのは、それが史実か否かにかかわらず、印象に残るやり取りになっていますね。
A:俗に五大老五奉行といわれてきた枠組みですね。三成はそれを秀頼成人までの一過性の枠組みではなく、戦なき世にするための最善の策であるとするスタンスのようですね。
I:でも、こういう親しいというか不思議な関係性を描いて、どうやって関ヶ原で激突する流れになっていくのか興味深いですね。
A:お、そうきたか、という斬新、新鮮な流れを期待したいですね。
I:今週特に印象に残ったのが「秀吉と家康」「秀吉と茶々」のやり取りでした。
A:秀吉が初めて登場した時のことを覚えていますか? 信長(演・岡田准一)を訪ねてきた家康の面前で、柴田勝家(演・吉原光夫)に蹴り倒されるという衝撃的な登場の仕方でした。
I:なんだかんだいって、秀吉のサクセスストーリーというのは、日本史の中では特筆すべきものですよね。私は万感の思いで秀吉と家康のやり取りを見ていました。初登場の時の藤吉郎の姿を思い浮かべながら、すっかり白髪となった秀吉の姿に接した時に、時の流れと時代の変化を感じましたね。
A:〈天下はどうせおめーに取られるんだろう〉と達観した秀吉の姿が印象的でした。これまでは秀頼の行く末を最後の最後まで気にして、家康に懇願する、というのが定番でしたから、新鮮といえば新鮮でしたね。
I:私は〈白うさぎが狸になったもんだ〉という台詞がツボにはまりました。それだけ時が流れたんだなというのもありますし、人間もあのころとは違っているんだなと、しみじみしましたよ。
A:その流れの中で、〈知恵出し合って話し合いで進めるか。そんなもんうまくいくわけない〉と、三成が掲げた「理想の政(まつりごと)」を喝破します。現代の政権与党最大派閥でも似たようなことが行なわれていますが、それに対するメッセージのような感じもしますね。
I:そんなふうにも見えますが、実際にはずいぶん前から脚本は出来上がっていますから偶然ということになります。そして、茶々(演・北川景子)が弱った秀吉に〈秀頼はあなたの子とお思い? この私の子。天下は渡さぬ。あとは私に任せよ〉という台詞はインパクトがありましたね。
A:茶々が秀吉のことを「サル」と言い放ちました。信長の姪にあたる人物ですから、かつての立場なら「サル」呼ばわりしてもおかしくない関係ではあります。
I:父と母が非業の死を遂げた茶々の人生もまた戦国の悲劇。家康との関係性が気になりますが、いったいどういう結末を迎えるのでしょうか。それを考えると茶々という女性は最後の最後まで「悲劇」ですよね。
A:一連の秀吉の死と「唐入り」のことを見ていてふと思ったことがあります。朝鮮にわたっていた軍勢は、秀吉の死によって撤退することになります。もしかしたら朝鮮での状況を憂いた人々によって毒でも盛られたのではないかと……。
I:小説っぽい話になっちゃいますね。
A:秀吉の死因については諸説あって確定していません。諸説の中に、毒殺説もあったりするのですけどね。そういえば幕末にも孝明天皇の薨去から維新への動きが急展開しました。こちらは毒殺説がまことしやかに噂されました。
I:なるほど。
A:何はともあれ、豊臣秀吉の偉業に敬意を表して有名な秀吉の辞世の句をここに書き留めておきたいと思います。
露と落ち 露と消えにし わが身かな なにわのことも 夢のまた夢
I:大坂での栄華の日々は夢のような日々であった――。なんだか大阪にいきたくなってきました。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。
●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり