取材・文/沢木文
親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。
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殺人や暴力事件の報道に「ホスト」という言葉をよく見かける。2023年6月に静岡県で起こった乳児死体遺棄事件の首謀者は母親(24歳)と男(20歳)だった。彼らは客とホストの関係だったという。
ホスト絡みの報道は多く、学生や10代の女性が「パパ活」ほか性産業で働いた金を、ホストにつぎ込むという救いがないようにも感じる話も多い。その当事者の多くは、親からの虐待やいじめを受けた「居場所がない女性」である。
しかし、実際に歌舞伎町の通称・ホスト通りと呼ばれる道を歩いていると、地味で真面目そうな女性も多い。いわゆる「普通の人」がホストにハマっていくのはなぜか、取材を続けるうちに、妙子さん(60歳)に出会った。彼女は2年前に娘(30歳)がホストにハマり、300万円を使ってしまったという。今、娘はホスト遊びをやめ、派遣社員として働いている。
妙子さんは当時を振り返りながら、「ウチの娘は、“認められたい”という心の隙間に入り込まれたんでしょうね」と語る。
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コロナで夫の会社も傾いていた……
娘は、母・妙子さんの敷いた「緒方貞子さんのように国際的に活躍する人になってほしい」というレールの上を順調に進んできた。が、偏差値68の名門大学に在学中の就職活動時に「アイドルになりたい」と本音を明かす。
妙子さんはそんな娘も受け入れ、企業の受付業務を行う会社に契約社員で入ることを認める。娘は俳優の養成所に入ったり、Instagramを始めるなど、芸能界に向けて活動をしていた。
「土日はメイド喫茶でも働いていたみたいです。あとはコンセプトカフェというのか、コスプレして接客する飲食店でもアルバイトをしていました。パパ(夫)と一度行ったのですが、食事はレンチンだし、グラスは曇っているし、すぐに退散しました。ただ、娘は指名や売り上げもあるようで、いい給料をもらっていましたよ」
帰り道、夫は「学歴のムダ使いだな」と言い、妙子さんも同意した。そうこうするうちに、コロナ禍に入ってしまう。そのとき、娘はコンセプトカフェの同僚に誘われて、歌舞伎町のホストクラブに行く。
「受付の仕事も切られ、メイド喫茶やカフェも休業になり、破れかぶれになったんでしょうね。娘はホストなんて、一切興味がなかったのに、同僚に誘われて行ったんです。初回は5000円と安かったそうです」
そこで、当時28歳の娘は新人のホスト(20歳)と出会う。彼は娘に「かわいいね」「アイドルみたい」など、容姿をベタ褒めした。
「2時間たっぷりと“かわいい”“好きになっちゃった”などと言われて、デートに誘ってくれたそうです。数回デートして“ホントに好き。付き合って欲しい”と言い、恋愛関係になったら、途端に冷たくなる。娘はそのホストを好きになっているので、会うためにお店に行くようになる」
ホストクラブは、初回こそ安いが、ボトルを入れれば高くつく。シャンパン1本10万円以上という世界だ。娘はすでにホストを好きになり、付き合っていると思っている。その関係を失うことに、不安を抱きホストの心を繋ぎ止めるために献身をしてしまう。
「娘は結婚する気だったようです。あの頃は、コロナ禍で人に会えませんから、“これを逃したら一生独身”とも思ったみたいです。そうしているうちに、ホストの望むまま、シャンパンやコニャックなどのボトルを入れ続け、なけなしの貯金も消えたそう」
ホストクラブは相手の恋愛感情を利用して、お金を引き出す装置とも言える。その世界の中で、一人のホストを輝かせるために、客同士を競わせるのも特徴だ。例えばAというホストにB、C、Dと客がいたとする。B、C、Dの3人のうちだれが一番Aにお金を使ったかを競争するのだ。
「それに負けず嫌いの娘は頑張ってしまった。自分が好きなホストを“売上ナンバーワンにした、立役者は自分だ”という証が欲しくて、お店にツケをしてお金を積んでいったのです」
その額はたった8か月で300万円。ホストクラブは客もホストも大量にお酒を飲むことが多い。正しい判断力も失われていく。
【行かないことがとても重要な対策方法……次のページに続きます】