江戸の街づくりに尽力した伊奈忠次(演・なだぎ武)が登場。(C)NHK

ライターI(以下I):家康が江戸に入って伊奈忠次(演・なだぎ武)らと街づくりについて打ち合わせをしている場面が登場しました。

編集者A(以下A):〈城下と平川を堀でつないだ今、次はこの日比谷入り江をどうするか。神田山を削り、その土で日比谷入り江を埋め立てまする〉と語られました。戦国時代を終わらせたということが家康の第一の偉業として伝えられますが、今日、世界的な大都市に発展した江戸―東京をつくった大恩人の側面もあります。

I:わずかではありますが、劇中で触れてくれたことは最大限評価したいと思います。

A:実は歴史作家の安部龍太郎先生と取材をしたことがあります。都心にある日比谷公園にある心字池が日比谷入り江の痕跡を残していることなど、新たな発見がありました。その様子は『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』にまとめられています。少し長くなりますが、冒頭がこんな感じです。

徳川家康が関東への移封を命じられたのは天正十八年(一五九〇)七月、四十九歳の時である。

駿河、遠江、三河、甲斐、信濃の旧領に替えて、小田原北条氏の勢力圏だった関東八か国の大半を与えられ、江戸に居城を築くことにしたのだった。

そのいきさつについて『徳川実紀』は次のように伝えている。

小田原城がまだ落城する前、家康が織田信雄(信長次男)と笠懸山(石垣山)の陣所にいた時、秀吉が小田原城内がよく見える山の端まで二人を連れて行った。

そうしてしばらく眼下を見渡し、戦の状況を語り合っていたが、ふいに、秀吉がこうたずねた。

「この城が落ちたなら、建物ごと徳川どのに差し上げようと思っておるが、貴殿はここに住むべきと思われるか」

その問いに家康はこう答えた。

「先々のことは分かりませんが、転封を命じられたなら取りあえずこの城に住むしかないものと存じます」

「いや、それはよろしくあるまい。この地は関東の咽喉元に位置する大事な場所なので、重臣のうち軍略に通じた者に守らせ、貴殿はこれより東の方にある江戸という所に本城を定められるがよい。地図で見たところ、実に優れた立地のようだ」

秀吉はそう勧めたばかりか、

「やがて小田原の片がついたなら、奥州まで征伐しようと考えている。その折に江戸の城に立ち寄るので、後のことは重ねて相談しよう」

そう言って承知させたので、転封のことも江戸を居城にすることも、この時に決まってしまった。これを聞いた重臣たちは、あまりの事に驚嘆したという。

また秀吉は大久保忠世を呼び、「汝は徳川家の股肱の臣なので、小田原城に箱根山を添えて拝領せよ」と申し付けた。

このために大久保家は代々この城を守ることになったが、秀吉がこんな計らいをしたのは徳川家のことを思ってのことではなく、徳川家との合戦になった時、忠世を身方に引き入れようと考えたからだった。

こうして家康は関東の僻地に追いやられたというのが、徳川家の公式記録と言うべき『徳川実紀』の見解だが、はたしてこれは事実なのだろうか。

江戸は本当に寒村だったのか。

秀吉は家康の力を削ぐために駿遠三甲信の五か国を没収し、だだっ広いだけの未開の地である関東に追いやった。これまで一般的にはそう考えられてきた。

それは『実紀』の記述にも色濃く出ているし、当時の江戸城はいかにも粗末で、城下には茅葺きの家が百軒ばかりしかなかったと記した史料もある。

ところがこれは、茅や蒲が生い茂る湿原を大都市に発展させた家康の見識の確かさや、労苦をいとわなかった徳川家臣団の働きを美化するために作られた物語だという説も近年では多い。

いったい本当のところはどうだったのか。我々は実像に一歩でも近付こうと、コンクリートジャングルと化した東京の中にわずかに残る江戸の痕跡を求めて、新たな旅を始めたのだった。

A: 次回から別枠でその時の取材の模様を紹介したいと思いますが、家康の街づくりがいかにすごいのかという話になります。それに触れるためにわざわざ伊奈忠次をキャスティングした『どうする家康』、なかなか心憎いですね。

I:東京では再開発などで新たな発掘調査があったりして新発見も多いそうですね。

A:家康移封当時、寒村だったといわれていますが、けっこうにぎわっていたのではないかという痕跡もあるそうです。

I:伊奈忠次が登場しただけで、400年ほど前の江戸に思いを馳せることができますね。

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。

●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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