VFXを駆使した騎馬軍団

眞栄田郷敦演じる武田勝頼。(C)NHK

A:さて、織田・徳川連合軍に背後に回られた武田勝頼(演・眞栄田郷敦)が〈御旗楯無ご照覧あれ〉と全軍を鼓舞します。これは1989年の『武田信玄』や2007年の『風林火山』でも登場した武田家の『鉄板フレーズ』。「楯無」は源氏伝来の甲冑で、前出の『信長全史』には菅田天神社蔵の甲冑の写真も掲載されています。

I:父信玄を超えたいと思う感情の機微を眞栄田郷敦さんがうまく表現してくれていて、勝頼のシーンはなんだか感動するんですよね。郷敦さんのファンネームが「ゴーディアンズ」というようですが、私も「ゴーディアンズ」になりたいと思うくらい見入ってしまいます。

A:眞栄田郷敦さんの勝頼の今後が本当に本当に楽しみですね。

I:そしていよいよ合戦が始まります。武田の軍勢が織田陣に攻めかかります。本作で多用されているVFX(視覚効果)を駆使した騎馬軍団でした。

A:いかに大河ドラマといえども実写の場合調達できる馬の数は10数頭。劇中のようなアングルでの撮影は難しいでしょう。騎馬軍団の迫力ある映像となるとVFXの採用は不可避。 とはいえ、現状のクオリティに不満を覚える人もいたかもしれません。当欄では何度も言及していますが、新たな合戦シーンの表現に奮闘する制作陣の労苦を讃えたいと思いますし、近い将来、グレードアップして、見る人を圧倒するクオリティになることを期待したいと思います。

I:昔の大河ドラマをオンデマンドなどで視聴すると、上半身のみ騎乗したように見せるスタジオ撮りも多用されていました。技術の進歩を一度ひとまとめしてみたいですね。

信長と3000挺の鉄砲と

3000の鉄砲隊の威力に満足げな秀吉(演・ムロツヨシ)。(C)NHK

I:そして、武田軍が織田・徳川軍が設営した馬防柵に攻め込んできて、信長が調達した鉄砲の一斉射撃が始まります。秀吉の〈面白いように死んでいくわ〉という台詞が印象的でした。

A:〈もはや兵が強くとも戦にゃあ勝てん。銭もっとるやつが勝つんだわ〉という台詞もこの時代の現実を象徴したものになっています。当時の日本では急速に鉄砲が普及しましたが、弾に必要な硝石は輸入に頼っていました。信長が鉄砲を3000挺持っていたとしても、弾がなければ無用の長物。しかし、物流都市・堺を手中におさめていた信長は、硝石をがっちり押さえてました。

I:秀吉の台詞には重みがあるというわけですね。

A:信康(演・細田佳央太)が〈これはなぶり殺し〉と嘆息したようにこの合戦は武田方の完敗でした。山県昌景だけでなく、馬場信春などの重臣や真田家の嫡男信綱もこの戦いで討ち死にして、弟の昌幸が真田家を継承することになります。

I:さて、設楽原の合戦を経て、劇中では家康は信長に臣従し、「上様」と呼ぶようになりました。

A:物語がどんどん面白くなっていきますね。第22回の冒頭では、かつて虫すら殺せなかった信康が象徴的に回想されていました。今後どうなっていくのか、本当に楽しみです。そして、先週、今週の長篠城の攻防、設楽原の決戦、織田と武田の関係などを深掘りしてみたいという方は、平山優さんの『徳川家康と武田信玄』(幻冬舎)がお勧めです。大河ドラマの関連本はたくさん刊行されるのですが、ドラマと世界観を共有している本はほとんどないので、いまひとつ盛り上がらない。ところが平山さんの著作は時代考証を担当されているだけあって、内容はドラマの進行をより理解できる感じに仕上がっています。

I:そういう本があるとドラマも盛り上がりますよね。

A:そして物語もどんどんスリリングに展開していく気配です。

この戦で何かが変わった信康。(C)NHK

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。

●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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