ライターI(以下I):今週はこれまでの大河ドラマではあまりなかった演出が見られました。元康(演・松本潤)と瀬名(演・有村架純)のラブシーン未遂です。
編集者A(以下A):まるで昭和のラブコメディのような雰囲気でした。こんな場面が大河ドラマで見られるとは衝撃的でした。予告では家康人生の最大の危機のひとつである「三河一向一揆」が描かれるようだったので……。
I:元康が瀬名に接吻を求めるとは、大河史上でも特筆すべき場面になりました。今はラブラブなふたりですが、その歴史は変えられません。今後この夫婦がどのように「歴史的事実のマット」に着地するのか。これは見どころです。
A:今、Iさんは「接吻」といいましたが、日本では平安時代からずっと「口吸い」といわれていました。ですからあの場面は、「家康、瀬名に口吸いをせがむ」という感じでしょうか。当時の日本人にとって口吸いが秘め事だったのか、いまよりもっとオープンだったのかわかりませんが、「口吸い」が明治になって「接吻」として広まり、やがて「口づけ」になり「キス」となる歴史を振り返るきっかけにはなりますね。
I:『真田丸』でも真田信繁(演・堺雅人)ときり(演・長澤まさみ)のキスシーンがありましたものね。
A:いろいろな意味で、この夫婦の今後を制作陣がどのように描いていくのか、見逃せないですね。さて、瀬名とのやり取りの中で「泰康」というのがあげられました。「やすやす」だそうです(笑)。このくだり要ります? と思わなくもなかったですが……。
I:「夫婦相和す」でいいじゃないですか。でも気になるのが、於大の方(演・松嶋菜々子)と瀬名の「戦国版 渡鬼」のような場面。前週の「勝て! 勝て! 勝て!」に続いて「それ! それ! それ!」と鼓舞していましたが、瀬名へのあたりが強いような……。
A:ややテンション高めの姑ってことでいいのではないでしょうか(笑)。よもや嫁姑問題が事件の端緒となるわけでもないでしょうし。
「元康 改め 家康」の真相とは?
A:さて、「泰康」の話も出たことですから、改名の話をしましょう。今川氏真(演・溝端淳平)と決別して今川陣営から完全に離反したのを機に、まず取り組んだのが今川義元の偏諱を受けていた「元康」という名を変えようということでした。
I:第1回で、王道と覇道についてのやり取りをするなど、元康と義元は、強固な関係かと思われましたが、戦国の世とは儚いものですね。室町幕府初代将軍足利尊氏も当初は鎌倉幕府執権北条高時の偏諱を受けて「高氏」を名乗っていましたが、幕府滅亡後は後醍醐天皇の諱「尊治」の偏諱を受けて「尊氏」を名乗ります。「高氏」と「尊氏」は読みは変わらないのですが……。
A:幕末の長州藩主毛利敬親も当初は12代将軍家慶の偏諱を受け「慶親」でしたが、長州征伐を機に改名させられています。
I:さて、そうこうして、元康は「家康」と諱を改めます。源氏の「源義家」の「家」の字が由来だそうです。義家は、昨年の大河で大泉洋さんが演じた源頼朝の高祖父(祖父の祖父)になります。それに加えて、〈三河をひとつの家だと考えておるのじゃ〉とその思いを開陳しました。
A:なるほど。家臣団だけではなく領国全体で「チーム家康」ということなんですね。
【一向宗の寺院に潜入した家康。次ページに続きます】