所作もさすがの真矢巴
I:ところで劇中では、瀬名の両親関口氏純(演・渡部篤郎)と巴(演・真矢ミキ)の「その後」をあいまいにしたままで人質交換になりました。
A:なんかいろいろな物語を想起できる描き方でしたね。徳川方の史料『松平記』では切腹させられたとあったり、その後も生存していたとする説もあります。その後が判然としないというのは、これもまた敗者の悲哀。本作のようにスッと退場するというのは感慨深いですね。
I:関口家の巴を演じた真矢ミキさんからもコメントが寄せられました。
第5回 、巴のせいで今川家からの脱出に失敗してしまうシーンは、初めて脚本を読んだ時「私か……」と複雑な思いでした(笑)。でも巴を表すには重要なシーンですし、私自身、演じていく上でのヒントになりました。良く言えば 、育ちがよく、物事の裏を読まない純粋さ、素直さがあります。悪く言えばうっかりしていて思慮深さに欠けるとも言えますが、それだけ周囲の人に支えられて生きてきたのだろうと思います
瀬名にとっても、気品はあるけれど、たまに理解しがたいお母さんという感じだったのかな……。でも巴は、 実は奥底に熱いものが流れている女性だったのだろうと思っています。それを象徴するのが、第6回で巴が瀬名に対し「そなたが命を懸けるべき時は、いずれ必ずきます。それまで、強く生きなさい」と言葉を掛けるラストシーン。大切な人を守るために命を捧げる覚悟や潔さ、娘への愛、戦国を生き抜いてきた巴の強さが詰まった最期だったと思います
I:撮影時には、真矢ミキさんにとって懐かしい再会があったようです。コメントの続きです。
所作指導の花柳寿楽先生とは、宝塚で男役を演じていた時以来の再会でした。身体に染みついているのが男役の所作なのと、油断すると10代から習っている日本舞踊がつい出てしまうので、大変苦労しました(笑)。「日常の所作」を身につける難しさを実感しつつ、ふとした時に出てしまいそうになる日本舞踊を「抑えておさえて……」と自分の中で葛藤していました。巴は育ちがよく、所作を非常に厳しく叩き込まれているお家の生まれなので、その点では多少演じやすかったのですが、収録中、何度も寿楽先生のもとに走って確認しにいったのを覚えています
I:なんだかいい話ですね。大河ドラマでは所作の出来不出来が意外に目立ちますが、出番こそそれほど多くはありませんでしたが、真矢さんの何気ない所作にちょっと感じ入ることもありましたから、こういうお話が聞けるとうれしいですね。
A:さて、今週の劇中では、瀬名らを引っ立てる役まわりで岡部元信(演・田中美央)も登場しました。岡部元信は、桶狭間の合戦の後、主君義元の首級を信長から受け取った重臣。後に、今川家から離れて武田家に身を投じ、武田家と運命を共にするという悲運の武将でした。同じ今川家臣だった一族の岡部正綱の流れは徳川家に降って、江戸時代には岸和田藩主となります。
I:岸和田といえば、だんじりまつりで有名ですね。その発祥は岡部家の治世の時代だったそうです。
A:敗者となった今川家の家臣団のその後に少し触れただけでも色々なドラマがありますね。9月のだんじりまつりの際には、その発祥が岸和田藩主岡部家の治世で、岡部家は今川家臣だったんだよ、というのを少し思い起こしてほしいですね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。
●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり