文/池上信次

前回(https://serai.jp/hobby/1093709)までに紹介した、『ジャミン・ザ・ブルース』を監督したジョン・ミリは、「映画」を作りたくて映画監督になったのではなく、「ジャズ映画」を作るのが目的でした。それに協力したノーマン・グランツも同じ志だったはずです。まず「ジャズ」ありきで突進。だから2作目でつまずいてしまったわけですが、それほど「ジャズマンの映像」には魅力があるものなのですね。そして、『ジャミン・ザ・ブルース』から30年後、同じように行動した人がいました。

大学の法科講師、ブルース・リッカーは70年代初頭にニューヨークから移って赴任したカンザスシティで、その街とその地のジャズに魅了され、ドキュメンタリー映画を作ることを計画します。リッカーには映画制作の経験はありませんでしたが、5年かけて映画を完成させ、1979年にアメリカで公開され、日本でも82年に劇場公開されました。タイトルは『KCジャズの侍たち カウント・ベイシーと甦えるブルー・デヴィルズ(原題:The Last of the Blue Devils)』(現在国内DVD発売なし)。KCはカンザスシティのことです。侍の意味するところはわかりませんが、原題のとおり「ブルー・デヴィルズの生き残りたち」「最後のブルー・デヴィルズ」とすれば、もう少し内容は伝わるかと思います。カンザスシティは、カウント・ベイシー・オーケストラの誕生の地であり、チャーリー・パーカーの出身地でもあります。ブルー・デヴィルズは1920年代にオクラホマシティで結成されたグループで、1930年代にはカンザスシティで活躍しました。そこにはレスター・ヤング、カウント・ベイシー、バスター・スミスらが参加しており、このグループはのちにカウント・ベイシー・オーケストラに発展していきます。

この映画は1974年3月にカンザスシティで行なわれた、ブルー・デヴィルズ、そしてカンザスシティゆかりのジャズマンたちの同窓会セッションと、翌75年の同地でのカウント・ベイシー・オーケストラの公演の映像とインタヴューを中心に構成されています。映画の主役となっているのがカウント・ベイシー、ジェイ・マクシャンというカンザスシティの2大巨頭バンドリーダーと、顔役ヴォーカリストのビッグ・ジョー・ターナーという、これ以上はない顔ぶれ。また、彼らとインタヴューに登場するジャズマンの歴史的記録映像も挿入しながら、カンザスシティ・ジャズの黄金時代を紹介しています。

リラックスしていながらも迫力のあるターナーらの主役陣セッションは圧巻ですが、ポール・クィニシェット(テナー・サックス)、エディ・ダーハム(トロンボーン)、バスター・スミス(アルト・サックス)、チャールズ・マクファーソン(アルト・サックス)、クロード・ウィリアムス(ヴァイオリン)といった(名前と顔が結びつかない)実力者たちが「動いている」のには驚きです。ほかにもジョー・ジョーンズとベイビー・ラヴェットのドラム競演など、ほかでは観ることのできない貴重な映像が満載です。また、レスター・ヤングについて語るベイシー、チャーリー・パーカーについて語るバスター・スミスなど、「よくぞ残してくれました」というインタヴューも興味深いものばかり。今ではよく知られる、パーカーのニックネームが「バード」になった由来も、ここでゆかりのミュージシャンによって語られると説得力が違いますね。ちなみに前回紹介した、パーカーの1952年の演奏映像「ホットハウス」が編集版ではありますが、挿入されています。

テーマにゆかりのミュージシャンのインタヴューと歴史的映像を編集したドキュメンタリーというのは、近年のジャズ・ドキュメンタリーの定番構成ともいえるものですが、これがモデルになったのかもしれません。少なくともこの時代にはかなり斬新なものだったと思われます。「素人」で始まった制作でしたが、これは超一級のジャズ・ドキュメンタリーであり、時を経てますますその価値は高まっているといえるでしょう。

リッカーはこの初監督映画のあと、88年公開のセロニアス・モンクのドキュメンタリー映画『ストレート・ノー・チェイサー』をプロデュース(監督:シャーロット・ズウェリン)。97年公開の、クリント・イーストウッドのためのジャズ・コンサートのドキュメンタリー『イーストウッド アフター・アワーズ』を監督。2003年にはイーストウッド監督の『ピアノ・ブルース』をイーストウッドとともにプロデュースしました。また2010年のデイヴ・ブルーベックのドキュメンタリー映画『イン・ヒズ・オウン・スウィート・ウェイ』を監督するなど、ジャズ・ドキュメンタリー映画のプロデューサーとして活躍しました(2011年没)。大学講師リッカーの、最初の思い切った一歩がなければ、ジャズ・ドキュメンタリー映画の方向性も現在とは違っていたかもしれません。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『サブスクで学ぶジャズ史』をシリーズ刊行中。(小学館スクウェア/https://shogakukan-square.jp/studio/jazz)。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『ダン・ウーレット著 丸山京子訳/「最高の音」を探して ロン・カーターのジャズと人生』『小川隆夫著/マイルス・デイヴィス大事典』(ともにシンコーミュージック・エンタテイメント)などを手がける。また、鎌倉エフエムのジャズ番組「世界はジャズを求めてる」で、月1回パーソナリティを務めている。

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