あまりにもやりきれない頼家の最期
I:頼家が善児(演・梶原善)に殺められました。とどめを刺したのはトウ(演・山本千尋)ですが。いくらキャラが立っていると言っても、「アサシン善児」などネット上で人気でも、殺し屋に「頼朝様のお子」が殺されるということが釈然としません。
A:Iさんは、宗時(演・片岡愛之助)のときも範頼(演・迫田孝也)のときも同じようなことをいっていましたね。でも、『愚管抄』に書かれている頼家殺害のシーンをそのまま再現すれば、それはそれで正視できないかもしれません。『愚管抄』には、〈頼家入道をば 指(さし)ころしてけり。(中略)頸に緒をつけ、ふぐりを取などしてころしてけりと聞えき〉と短いですがリアルな表現で頼家の最期を伝えています。意訳すると、「頼家の抵抗が激しかったので、首に紐を巻きつけ、睾丸をつぶしたうえで刺し殺した」というのです。前鎌倉殿への畏敬の念などこれっぽっちもない、あまりの残酷さに言葉が出ません……。
I:頼家が思いっきり抵抗したのを無理やり殺したんですね。悲しみが倍増してしまいますが、慈円(演・山寺宏一)はいったい誰からそんなリアルな話を聞いたのですかね。
A:しかし、善児と頼家の最後の格闘も両者ともに熱演でした。範頼殺害の時もいいましたが、名も無き刺客に討たれるよりもキャラが確立した善児に討たれた方が、「大河ドラマ=壮大なるエンターテインメント」としてはいいというのが私の意見です。
I:その範頼殺害の際に両親を善児に殺害されたトウが修善寺で〈親の仇〉と善児を刺し殺しました。私は映画『コロンビアーナ』の主人公カトレアとトウが重なってしまいましたよ。
A:善児が第33回で退場とは、早すぎず遅すぎずの絶妙なタイミングだと感じ入っています。
祖父義朝同様に惨殺された頼家
I:そのほか今週で気になる場面はありましたでしょうか。私は、頼家と後鳥羽院(演・尾上松也)が結託する不安があったという描写が気になりました。
A:このころ時政(演・坂東彌十郎)とりくの娘婿の平賀朝雅(演・山中崇)が京都守護として上洛していますが、伊勢などで平家残党の挙兵(「三日平氏の乱」)があるなど、不穏な空気が流れていました。平賀朝雅の関与を疑う研究者もいますから、鎌倉としては、後鳥羽院と平家残党に頼家が加担したら面倒なことになるという意識はあったかもしれません。
I:なるほど。それで慌てて頼家を亡きものにしようと考えたのかもしれないですね。
A:今週は、殺害シーンのほかにも切ない場面がありました。頼家と義村が対峙するシーンです。頼家は〈我が父源頼朝は、石橋山の戦いで敗れてから、わずかひと月半で大軍を率いて鎌倉へ乗り込んだ〉と語って〈わしは必ず鎌倉へ戻る!〉と力説しました。
I:義村がけんもほろろに協力を断って、結局、その希望は叶えることができませんでしたね。
A:そうです。父頼朝(演・大泉洋)のように起死回生の逆転劇を再現できなかった頼家は、入浴中に襲われた祖父義朝同様に、不意討ちによって命を奪われてしまうことになります。
I:父のように「復活」するのではなく、祖父のように惨殺されてしまう……。源氏の宿命といえばそれまでですが、あまりにも悲しく切なくてやりきれないです。
A:劇中、猿楽の面が登場しましたね。予告編でも流れていましたので印象に残った方も多いのではないでしょうか。面といえば、修禅寺には頼家所用のものと伝わる面があります。俗に「死相の面」ともいわれていますが、それを思い出してしまいました。
I:その頼家を金子大地さんが好演、熱演してくれました。大泉洋さんの頼朝の跡を継いで荷が重かったと思いますが、史上最大級に理不尽な最期を迎えた頼家の怒り、絶望、無念をしっかり表現いただいたと思います。私は頼家の最期の場面、むせび泣いてしまいましたよ。
A:金子大地さん。視聴者の心にしっかりその姿が刻まれましたね。また大河で会えるといいですね。
(こちらもご覧ください→若き鎌倉殿を熱演! 金子大地が源頼家の「絶望と怒りと悲しみ」を熱く語った【鎌倉殿の13人 満喫リポート】源頼家=金子大地番外編 https://serai.jp/hobby/1087836)
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』、鎌倉歴史文化館学芸員の山本みなみ氏の『史伝 北条義時』などを担当。初めて通しで見た大河ドラマが『草燃える』(1979年)。先日、源頼朝のもう一人の弟で高知で討たれた源希義の墓所にお参りした。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり