ライターI(以下I):頼家(演・金子大地)が倒れました。20歳そこそこの若さです。『吾妻鏡』によると、卜籤の結果、「霊神の祟り」とのお告げがあったそうです。そんなバカなって感じもします。
編集者A(以下A):頼家が倒れる2日前にも御所で蹴鞠が催されていたようです。頼朝(演・大泉洋)急死後の流れをみて、若き二代目鎌倉殿頼家をみんなでしっかり支えようという動きがないところが悲しいです。頼家にも不足な部分はあったかと思いますが、若いのだから当たり前。それを見守りつつ、フォローするのが本来の御家人たちの務めだと思うのですが。
I:『吾妻鏡』に記録されているように蹴鞠に耽溺し、女性にうつつを抜かし、訴訟の扱いもぞんざいという頼家の様子が描かれました。当欄では、『吾妻鏡』による「頼家暗愚誘導」だと再三指摘してきました。
A:本来であれば、しっかりした「教育係」というか「番頭」的な人物がいて支えるということでなくてはならないはずです。ところがそうはならない。本作の「源氏は飾り物にすぎない」という北条一族の裏テーマ通り、頼家が窮地に陥る様が展開されました。
I:鶴岡八幡宮の本殿に登って振り返ると、若宮大路に敷かれたまっすぐな段葛(だんかずら=参道)が由比ガ浜方面に続きます。鎌倉の象徴ともいうべき美しい光景です。若宮大路と段葛は、頼家の誕生を祝して頼朝が命じてつくらせたものですから、いわば頼家は「鎌倉の申し子」であり「源氏と坂東武士統合の象徴」ともいうべき存在。それだけにしっかりと頼家を支える体制が築けなかったことが悲しいですね。
A:鎌倉を訪れたら頼家に思いを馳せながら段葛を歩いてみてほしいですね。さて、劇中では、比企能員(演・佐藤二朗)が一幡(演・相澤壮太)を次期鎌倉殿にと目論みます。一幡からみれば比企能員は外祖父。摂関政治から連綿と続く外祖父が政務の実権を握るという概念が強烈に残っていたのでしょうか。
I:比企と対立する北条時政(演・坂東彌十郎)は、頼朝次男で頼家の弟千幡(演・嶺岸煌桜)の外祖父ということになりますものね。
A:ここで、北条と比企の対立について、時系列で確認して整理してみましょう。すべて建仁3年(1203)の出来事です。
頼家の後継者をめぐる激しい対立
6月23日 阿野全成斬首
7月16日 京都で全成の息子阿野頼全誅殺される
7月20日 頼家発病
7月25日 劇中、北条の人々が集まり談合(『吾妻鏡』では、この日鎌倉に頼全の死の知らせが届く)
8月27日 東日本を一幡、西日本を千幡と全国を二分する決定
8月末日 頼家出家(『愚管抄』の記述。『吾妻鏡』では頼家出家は9月7日)
9月2日 時政、比企討伐を決意。比企能員討たれ、一族も滅亡。
9月5日 頼家、比企滅亡を知る。
9月7日 近衛家実の日記『猪熊関白記』9月7日条に「頼家が9月1日に亡くなった」旨、後鳥羽院に報告があったことが記される。
I:まず、全成の子息頼全が京都で誅殺されます。源仲章(演・生田斗真)の沙汰ということですが、〈鎌倉殿の命といわれておりますが、比企の指図であることは明白〉と義時(演・小栗旬)は断じます。
A:夫である全成の死から1か月もたたないうちの悲報ですから、実衣(演・宮澤エマ)の〈すぐにでも比企を攻め滅ぼしてください。首をはねて大きい順に並べるの〉という気持ちもわかります。実衣も辛いところです。時系列でみると、頼家が倒れる→どうも回復は無理そうとなり、8月末にかけて後継者は一幡が有力になってきたという流れでしょうか。
I:そこで北条側が巻き返して8月27日に、一幡と千幡が全国を二分して、関東28か国を一幡に、関西38か国を千幡にという沙汰をぶち込んで来たわけですね。当然比企能員が納得するわけがない。
A:劇中、義時が〈これで大義名分が立った。比企を滅ぼす〉と宣言し、さらに泰時(演・坂口健太郎)に対して、〈戦になったら、真っ先に一幡様を殺せ。生きていれば必ず災いのもとになる〉と命じます。
I:かつては、なだめ役に回ることが多かった義時の変わりようが衝撃的ですらあります。〈頼朝様ならそうされていた〉という思いが義時を支えていたのでしょう。劇中でも泰時と比奈(演・堀田真由)との間で〈父上は変わりましたか〉〈人は変わるもの。それでいいではないですか〉というやり取りがありました。
A:〈人は変わるもの〉。確かにその通りです。現代でも日常的に「あいつ変わったよな」という会話が交わされます。権力を目前とした時、権力を握った時、大金が手に入った時、異性に幻惑された時など、人が変わる瞬間をたくさん見てきました。羽振りのよかった人が零落して人が変わったのに衝撃を受けたこともあります。成長なのか堕落なのか豹変なのか形態はさまざまですが、人とは変わるもの。むしろ人の一面だけを見て安易にレッテルを張る方が危険です。
I:義時が変わったからといって、 誰も責められないということですね。歴史的にも羽柴秀吉も権力を握って人が変わったという印象です。そうした中で、劇中、比企能員が、三浦を味方につけようと義村(演・山本耕史)と談判します。
A:三浦を味方にすれば、北条と対等に戦えるということです。今後は、三浦の動向、三浦の台詞に要注目です。
【やくざの権力闘争だと考えたらわかりやすい。次ページに続きます】