生母政子(演・小池栄子)に「お前もだ!」と恨み節の頼家(演・金子大地)。(C)NHK

ライターI(以下I):鎌倉殿頼家(演・金子大地)が受けた仕打ちについて考えましょう。長患いしていて、奇跡的に病状が回復したら、本来そばにいてくれているはずの妻や舅など身内がことごとく討たれていた、って、よくよく考えたらこんな理不尽でメチャクチャな話はないですよね。

編集者A(以下A):日本の歴史上、こんな仕打ちを受けた政権トップはなかなかいません。しかも、比企一族討伐を主導したのが、実母政子(演・小池栄子)の実家北条家の面々。頼家にとっては祖父・叔父にあたる人々です。権力闘争の中では、不条理、理不尽、非情、冷酷な仕打ちは、珍しくないとはいえ、20歳そこそこの将軍頼家がなぜこのような仕打ちを受けなければならなかったのか……。

I:頼家が受けた衝撃はいかばかりだったでしょう。想像すらできません。

A:前週も指摘しましたが、鎌倉の若宮大路と段葛(参道)は、頼家誕生の際に安産祈願として造営されました。頼朝(演・大泉洋)が自ら陣頭指揮をとり、時政(演・坂東彌十郎)ら御家人ももっこ(運搬道具)を担いだそうです。皆、坂東武士の都を造るんだ! と希望にあふれていたはずです。あの日から20年ほどしか経っていませんが、権力をめぐる暗闘で御家人たちの意識も変わってしまったのでしょうね。

火に油を注いだ政子の苦しい言い訳

「私の孫を殺した!」と義時(演・小栗旬)に迫る政子。(C)NHK

I:そういうことを踏まえると、政子(演・小池栄子)と義時(演・小栗旬)の間で交わされたやり取りも胸に迫ってきます。政子は〈あなたは私の孫を殺した! 頼朝様の孫を殺した!〉と義時に詰め寄ります。義時は懸命に〈一幡様にいてもらっては困るのです〉と抗弁しました。私は、政子の〈もうあなたを信じることはできません〉という言葉に「うんうん」とうなずきながらみていました。

A:それでも政子は北条家とは決別することができない。頼家のもとに行って〈比企の一族は館に火を放ち命を絶ちました〉と 説明しましたが、誰がそんなことを信じますか? という内容でした。

I:あまりにもひどい。ひどすぎます。頼家に対して、言い訳のしようがない事態を招いたとはいえ、火に重油を注ぐような台詞でした。〈忘れるのです〉っていわれても、受け入れ不能な話です。案の定、頼家に〈近寄るな! 出ていけ! 北条をわしは絶対許さぬ! お前もだ!〉とまでいわれます。頼家が受けた仕打ちを考えたら、その叫びが痛いほど理解できます。

A:例によって、この事件に際しての政子の心情を記した史料は一切伝わっていません。ですから想像するしかないのですが、想像するといっても、当時の人々の「規範」を肌感覚で実感できないのが辛いところです。政子にとって、実の息子頼家への思いと、実家の北条家の権勢を維持したいという思いのどちらの優先順位が高かったのでしょう?

源氏の名門の平賀朝雅と時政・りくの「嫡男政範」という時限爆弾。次ページに続きます

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