源氏の名門の平賀朝雅と時政・りくの「嫡男政範」という時限爆弾

後鳥羽上皇(右/演・尾上松也)、慈円(中/演・山寺宏一)と鎌倉とを結ぶ中原親能(左/演・川島潤哉)。(C)NHK

I:ここで場面は、京の御所に転じます。後鳥羽上皇(演・尾上松也)、慈円(演・山寺宏一)とともにいたのが中原親能(演・川島潤哉)。中原親能は「13人」のひとりですが、もともと後白河院(演・西田敏行)の使者として鎌倉に下向したり、京と鎌倉を行き来していた存在です。

A:慈円は、頼朝と親しかった関白九条兼実(演・田中直樹)の実弟。劇中に登場した、千幡に「実朝」と名づけた話は、慈円の『愚管抄(ぐかんしょう)』に書かれている話です(ほかに近衛家実の『猪熊関白記』にも)。もちろん、天板つなぎ目の「実(さね)」からとったという細かいことまでは記述されていませんが……。『愚管抄』は、兄の兼実の日記『玉葉(ぎょくよう)』と並んで、この時代のことを知る基本史料。京都にいて、なぜこんな情報が! という話も書かれていたりしますし、今後の展開で重要な事件についても触れていますから、その慈円が後鳥羽院と鎌倉を知悉(ちしつ)する中原親能と一緒にいる場面を挿入してくるとは、なかなか深いですね。

I:時政とりく(演・宮沢りえ)の間に誕生した男子政範(演・中川翼)がすっかり成長しました。第21回で、政範をお腹に宿したりくと北条一族の面々が揃う回がありましたが、時の流れは早いです。

A:正室・りく所生の政範は、北条家の嫡男です。第27回で「13人」が揃った回がありましたが、その際に義時は「江間義時」として紹介されていました。つまり義時は別家を立てていたという扱いです。この段階では、北条家の継承者は義時ではなく、政範が有力だったということをここで確認しておきましょう。

I:政範が出てきた流れで、平賀朝雅(演・山中崇)も登場しました。平賀家は、源義光を祖とする源氏の名門。朝雅は源義光のひ孫にあたり、父の義信は頼朝によって源氏一門筆頭、御家人筆頭として遇されていました。兄の大内義信も千幡誕生の際には、三浦義澄とともに「二夜の儀式」を担当しています。

A:その源氏の名門が、時政・りく夫妻の間に誕生した女子の婿になっているわけです。新羅三郎義光のひ孫という毛並みの良さ、いまをときめく北条時政の婿ということで、朝雅もまた「鎌倉殿になってもおかしくはない男」ということになります。

比企出身の比奈との離縁

自ら去ることを決めた比奈(演・堀田真由)。(C)NHK

I:失意の頼家が、和田義盛(演・横田英司)、仁田忠常(演・高岸宏行)に北条討伐について相談します。事ここに至って、頼家は、梶原景時(演・中村獅童)粛清を承認したことを悔やんだかもしれません。失敗と一口にいっても、挽回できる失敗と、「覆水盆に返らず」と取り返しのつかない失敗があるんですね。さて、比企氏が滅亡したということで、比企出身の義時正室比奈(演・堀田真由)との別れが描かれました。

A:俗に「姫の前」と称される女性で、一目惚れした義時が熱心に口説いたということになっています。劇中では北条と比企の架け橋という設定でしたが、実際にそういう側面があったかもしれません。義時との間に朝時(名越流)、重時(極楽寺流)の男子を儲けました。泰時に反抗した朝時の名越流は冷遇されましたが、重時は長く京都の六波羅探題職にあり、兄泰時の孫にあたる執権時頼政権下で執権に継ぐ連署に就任しています。

I:後に朝時と重時に成長する男子が、前週とかにさりげなく登場しているのに目を細めていた私です(笑)。後年、重時の娘が時頼に嫁いで生まれたのが、元寇のあった頃の第8代執権北条時宗。比奈さんの流れがけっこう続いたわけです。

А:ちなみに2001年の大河ドラマ『北条時宗』で、重時を演じたのが平幹次郎さん。「小栗旬さんの息子が平幹次郎さんかぁ」と妄想するのも大河ファンあるあるではないでしょうか。

I:頼家の嫡男一幡が善児(演・梶原善)とトウ(演・山本千尋)のコンビの手にかかったような場面が描かれました。

A:劇中の台詞でも出てきますが、一幡は「頼朝様の孫」です。しかも頼朝は終始乳母の一族を優遇しましたが、流人時代の世話をした比企尼ゆかりの御曹司が一幡です。まぎれもなく源氏の貴種なのですが、その一幡ですら御家人間の権力闘争に巻き込まれる。ほんとうに闇の時代です。

そして頼家は、範頼が殺された修善寺に流された

I:そして、頼家が修善寺に送られることになりました。修善寺といえば、頼家のおじさんにあたる範頼が流され、最期を遂げた地でもあります。

A:修善寺は、かつて北条家の本拠があった伊豆韮山から12kmほど離れています。修善寺のある伊豆市には石川さゆりさんの名曲『天城越え』でもうたわれている「浄蓮の滝」があります。私は浄蓮の滝に行くたびに、範頼や頼家もこの名瀑を見たのだろうかと思いながら眺めています。

I:源氏にとって修善寺は、因縁の地でもあるわけですね。

А:ところで、1979年の『草燃える』で頼家を演じたのが郷ひろみさん。出家姿で『ザ・ベストテン』に出演して『いつも心に太陽を』を歌っていた記憶があります。

I:よくそんなこと覚えてますね(笑)。ところで、善児に誅殺された範頼の最期は衝撃的でした。修善寺といえば、前週に成長した姿で比企一族討伐にかかわったトウの故郷ということになるのですね。

A:ちなみに地名は修善寺ですが、寺院は修禅寺。ややこしいですが(笑)。それはともかく、冒頭で記した通り、日本の歴史上でも、「こんなひどい話はない」という仕打ちを受けたのが源頼家。次週、私は完全に頼家に感情移入しながら視聴したいと思います。

I:ハンカチ必須ですね!

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』、鎌倉歴史文化館学芸員の山本みなみ氏の『史伝 北条義時』などを担当。初めて通しで見た大河ドラマが『草燃える』(1979年)。先日、源頼朝のもう一人の弟で高知で討たれた源希義の墓所にお参りした。

●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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