政子の「うわなり打ち」の結果……。

ライターI(以下I):今週は主人公の義時(演・小栗旬)に大きな変化が訪れました。なんと八重(演・新垣結衣)を引き取ると同時に、伊東家の領地だった江間の地を引継ぎ、名乗りも江間小四郎義時となりました。えーー、そういう展開ですか! と衝撃を受けています。前週に豪快に振られていたのでなおさらそう思います(笑)。

編集者A(以下A):八重の今後はどうなるの? という部分については下手に推察してもしょうがないので、ドキドキわくわくしながら見守りたいと思います。どんな物語が紡がれていくのか、とっても楽しみです。「うわっ」と唸るような流れになるのか、感極まって涙で袖を濡らす展開になるのか、はたまた「そんなのありえない!」ともやもやすることになるのか……。

I:きっと想像をはるかに越えて「そう来たか!」という流れになると、期待している私がいます(笑)。さて、実務官僚として京都から大江広元(演・栗原英雄)、中原親能(演・川島潤哉)、二階堂行政(演・野仲イサオ)らが鎌倉入りしました。鎌倉の行政組織もどんどん整備されていきます。

A:大江広元は、頼朝(演・大泉洋)が〈あの者たちを束ねていくのも骨が折れる〉と愚痴の相手としていたように頼朝の側近として活躍します。さらには義時、政子の側近として重要な役割を担います。少し脱線しますが、安芸に領地をもらった広元の子孫が毛利家。後に毛利と結ばれる小早川家は土肥実平(演・阿南健治)の子孫といわれていますから、源平合戦の流れの中で頼朝が手に入れた地頭の設置という権利は、後々の歴史に大きな影響を与えたんだなと感慨深いです。

I:なるほど。ということは、わが国初の武家政権を支えた大江広元の子孫が武家政権を終わらせるきっかけを作ったということになるんですね。歴史の奥は深いですね。

A:脱線ついでに言及すると、二階堂行政はもとは藤原姓で、後に二階堂を名乗るようになったわけですが、鹿児島に入った子孫から田中角栄側近として知られた二階堂進氏が出ます。周囲から子弟への世襲を勧められたにもかかわらず断固拒否したという骨太な政治家でした。評論家の八幡和郎さんと二階堂進氏の墓参をした際に、肝付町にある二階堂家住宅にも立ち寄りました。19世紀初頭の建築で国の重要文化財に指定されている建物を仰ぎ見て、頼朝の時代から続く悠久な歴史に思いを馳せて、感動したことを覚えています。同じ肝付町にはわが国最南端の前方後円墳(塚崎古墳群)もあります。こちらはまったく観光地化されていませんが、大和政権の影響力が大隅半島にまで達していたのだと、こちらも感慨深かったです。

I:鹿児島観光というとどうしても薩摩半島に気を取られますが、大隅半島も楽しそうですね。

A:大隅半島に近い宮崎県飫肥には飫肥藩がありました。藩主は伊東家で「祐」の字を通字としています。この日向伊東家のルーツもまた、本作と連動して悠久の歴史を感じるものですよね。名城・飫肥城の佇まいも美しく、大好きな城下町のひとつです。

京風の儀式導入は重要な伏線なのか?

政子(演・小池栄子)が待望の男子を出産。

I:政子(演・小池栄子)の懐妊、出産の流れの中で、産養の儀に三夜を小山朝政(演・中村 敦)、五夜を上総広常(演・佐藤浩市)、七夜を千葉常胤(演・岡本信人)、九夜を北条時政(演・坂東彌十郎)が務めるということになりました。

A:生まれてきた子供の無病息災を祈ったりするもので、藤原道長など平安貴族の間でも行なわれていた儀式ですね。儀式には宴会がつきものですし。鎌倉殿と坂東武士の絆を固める役割を果たしたものと思われます。

I:現代も「お七夜」を祝い、その日に命名式のようなことを行なうこともありますが、古代中世から続く「歴史の大河」を感じますね。

A:さて、三夜を任された小山朝政は、父親の後妻が頼朝の乳母だったという縁。別の乳母比企尼(演・草笛光子)と面会した頼朝が〈乳母は実の親にも勝るとも劣らぬありがたきもの〉と話していましたが、本作では、乳母子という縁で許された山内首藤経俊(演・山口馬木也)も登場したり、乳母の重要性を印象的に描いていますね。

I:その流れの中で、政子が後に頼家となる男子を生み、乳母を誰に? という展開になりました。きっと視聴者の方々も〈これは重大事〉と身構えて、成り行きを見守ったのではないでしょうか。結局頼朝は〈ひとつに家に力が集まり過ぎてはならんのだ〉ということで、北条ではなく比企を乳母に選び、後の争いの種が撒かれましたね。

A:さて、産養の儀の場面、さりげなく挿入されていますが、京風の儀式を鎌倉に大々的に導入したことは、事と場合によっては重要な伏線になって来るかもしれないと思って眺めていました。坂東武士の面々は「京風」に染まることをよしとしない人が多かったでしょうから。

I:儀式の一環として、鶴岡八幡宮に神馬(しんめ)を奉納することになり、その馬曳き役に義経(演・菅田将暉)が任じられたことで、またひと悶着がおきます。有名な場面ですね。

A:こういう場面、しっかり挿入してくれるのはうれしいですし、鶴岡八幡宮にお参りしたくなりますね。鎌倉散策の際には『史伝 北条義時』の著者・山本みなみさんの勤務先でもある鎌倉歴史文化交流館にも足を伸ばしてほしいです。展示の案内文も山本さんの手によるものが多いそうです。

義時の深謀遠慮が仇になり……。

I:さて、今週は、頼朝の愛妾亀(演・江口のり子)の存在が政子に露見するという一大事件の顛末が描かれました。すでに予告で「亀の前事件」というサブタイトルが明かされていましたから楽しみにしていた視聴者も多かったようですね。

A:頼朝と政子が登場する作品でこの事件は山場のひとつ。1979年の『草燃える』でも印象的に描かれましたが、本作の亀の前事件は、「お見事!」としか言いようがない流れになりました。

I:全成(演・新納慎也)が〈兄上には御台所とは別に思い人がおられる〉と吹聴したり、りく(演・宮沢りえ)が政子に亀の存在を教えてしまう。人の口に戸は立てられないといいますが、まさにそれ。しかもおせっかいなりくが、後妻の存在を知った前妻が、後妻の屋敷を打ち壊してもいいという、うわなり打ちの風習も教えてしまう。

A:純粋な政子は真に受けてしまいました(笑)。〈形だけですよ〉とはいいながら、りくの兄の牧宗親(演・山崎一)に命じてしまう。ここまでは従来の定石ストーリーですが、ここに義時と義経が絡んできて、こんがらがってしまう。

I:まさに「妙」としかいいようがない展開でした。心配になった義時が義経に見張りを頼む。現地で宗親は軽い気持ちで義経に「手伝ってくれ」ということになったのですが、ストレートに受け取ってしまった弁慶らが派手に破壊してしまう。

A:面白くって吹き出しながら見てしまいましたが、案外、ここで描かれた顛末が真相なのでは? と思ってしまうような流れでした。重要なのは、りくの提案に乗った政子は、あくまで「受け身」だった風に描かれていることです。従来は、激怒した政子主導で打ち壊しが行なわれたと描かれることが多かったですから。

I:本作のサブテキストとして読んでいる方が多いという『史伝 北条義時』の受け売りになりますが、この時代にうわなり打ちは珍しいことではなかったようです。さて、一連の騒動ですが、頼朝からしたら、後継者とまで考えていた義経に泥をぬった行為が許せなかったのでしょう。景時に命じて牧宗親の髻(もとどり)を切ってしまいます。当時の男性は日常的に烏帽子をかぶっていますが、その中の髻を人目にさらすのは最大の恥辱だったようですね。そのうえさらに、人々の面前で髻を切られてしまうとは……。大罪人への仕打ちに等しいと受け止められてもしょうがないですね。

A:確かに教科書的にはその通りなんですが、この辺の感覚が現代人には理解できないんですよね。現代でいったらどのような仕打ちを受けたら、髻を切られたのと同等の恥辱になるのか……。いつもそんなことを考えていました。ところで、愛妻りくの兄である牧宗親がひどい仕打ちを受けた時政は、激怒して伊豆に帰ると言い出します。

I:自ら撒いた種とはいえ、頼朝の一大事です。北条氏が離反したら大変なことになりますからね。義時が自分につくか、時政につくか、そうとう心配だったようです。

A:頼朝は義時がどうするかが気がかりでした。実際には北条家の主導権争いも絡んでいたのだと思います。時政とまだ若い後妻のりく。冒頭の江間小四郎という名乗りが北条家の跡目争いとも無縁ではないのか、どうなのか。あれ、そういえば北条五郎、まだ登場していませんね。いつ登場するのでしょうか。

I:五郎の登場、やがて、時政・りくの間に生まれる男子……。北条家からも目が離せないですね。

京都から文官たちがやってきた。左から中原親能(演・川島潤哉)、大江広元(演・栗原英雄)、二階堂行政(演・野仲イサオ)。

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』を足掛け8年担当。初めて通しで見た大河ドラマ『草燃える』(1979年)で高じた鎌倉武士好きを「こじらせて史学科」に。以降、今日に至る。『史伝 北条義時』を担当。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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