草に濡れ来て草色の月涼し ──夏井いつき
宝厳寺
松山ゆかりの文化人の句碑が立つ寺
愛媛県松山市道後湯月町5-4
電話:089・946・2418
開館時間:9時~17時
交通:松山空港より車で約40分。伊予鉄道道後温泉駅より徒歩約7分
俳人の夏井いつきさんは、自宅のある松山市を拠点に俳句を広める活動を続けている。松山は正岡子規や高浜虚子をはじめ多くの俳人ゆかりの地。そんな俳都で気軽に使える句会場をと4年前、道後の上人坂に「伊月庵」を開設した。子規や山頭火らが集って俳句をした愚陀仏庵や一草庵に続く、俳人ゆかりの庵となった。
「それまで勤めていた教師を辞め、俳人になったばかりのときは食べていくのも大変でした。暮らしていけたのは俳句が盛んな松山の土地と人のおかげです。松山に恩返しするつもりで、庵を開きました」
そう語る夏井さんと上人坂を歩いた。上人坂は道後温泉東の山裾に鎮座する宝厳寺に向かう坂。宝厳寺は鎌倉時代中期の僧侶で、正岡子規が「伊予一の豪傑」と評した一遍上人(※一遍(1239~89)は、鎌倉時代末期に浄土教一宗派の「時宗」を開いた僧侶。)生誕の地だ。
「門前町として開かれたこの地はかつては色里(遊廓街)として栄えていました。ここを子規や夏目漱石も吟行して、名句も誕生した場所なんですよ」と夏井さん。
明治28 年、子規と友人の漱石は上人坂を吟行する。門前の遊廓街に驚いた漱石は、小説『坊っちゃん』で《山門の中に遊廓があるなんて前代未聞の現象》と描写。子規は宝厳寺の門前で一句詠んだ。
〈色里や十歩はなれて秋の風〉
俳人たちに愛された道後温泉
松山の町を歩くと至る所に俳句ポストが置かれ、誰もが気軽に投句することができる。
「俳句のタネはそこらじゅうにありますからね。昔、俳句初心者の主婦たちとミーハー吟行隊を結成して、道後温泉に浸かってフーフー汗を流しながら俳句を詠んだんです(笑)。みんな夢中で作句しました。吟行は発見がたくさんあって興味が尽きません」(夏井さん)
道後温泉は約3000年の歴史を誇る古湯。日本の公衆浴場として初めて国の重要文化財に指定され、今も現役で営業している。
道後温泉本館
3000年の歴史をもつ名句の宝庫
愛媛県松山市道後湯之町5-6
電話:089・921・5141(道後温泉事務所)
営業時間:6時~23時(札止22時30分。利用時間1時間以内)
定休日:無休(12月に1日臨時休館あり)
料金:420円
交通:松山空港より車で約40分。伊予鉄道道後温泉駅より徒歩約5分
江戸期の俳人、小林一茶も道後温泉の吟行を楽しんだひとりだ。
〈寝ころんで蝶泊らせる外湯哉〉
春うららかな温泉情緒を感じさせる句を詠み、以来一茶は松山が気に入り、翌年も来遊したという。
松山出身の文人たちも湯に浸かり作句した。子規の句、
〈十年の汗を道後の温泉尓洗へ〉
子規について学ぶことのできる、子規記念博物館に訪れたい。
子規記念博物館
約7万点の資料や書簡、書籍を収蔵
愛媛県松山市道後公園1-30
電話:089・931・5566
開館日:5月1日~10月31日:9時~18時(入館17時30分まで)、11月1日~4月30日:9時~17時(入館16時30分まで)
休館日:火曜(祝日の場合は翌日)
入場料:400円
交通:伊予鉄道道後温泉駅より徒歩約5分
一草庵
自由律俳句の俳人 種田山頭火の終焉の地
立ち寄り処
水口(みなくち)酒造
老舗の酒蔵で俳句を楽しむ
愛媛県松山市道後喜多町3-23
電話:089・924・6616
営業時間:8時30分~17時
定休日:日曜、祝日、年末年始
交通:伊予鉄道道後温泉駅より徒歩約4分
※この記事は『サライ』本誌2022年8月号より転載しました。