霰聞くや この身はもとの 古柏──松尾芭蕉

火災で芭蕉庵を失い、門人らが尽力して建てた新庵に移り住んだ際に詠んだ句だ。

芭蕉庵を模した祠が佇む芭蕉記念館の庭園。。

詠む人 草野満代さん(フリーアナウンサー・55歳)

昭和42年、岐阜県生まれ。津田塾大学卒業後、日本放送協会を経てフリーアナウンサーとしてテレビなどで活躍。著書に『ニュースキャスターの本音』他。

芭蕉記念館 (1)

芭蕉を知る、学ぶ深川吟行の出発地点

芭蕉記念館の2階、3階の展示室では、芭蕉真筆の手紙をはじめ、芭蕉ゆかりの資料や俳句にまつわる資料などを展示。
芭蕉庵があったと推定される場所付近で見つかった蛙の石像。「伝芭蕉遺愛の石の蛙」として大切にされてきた。芭蕉記念館蔵

東京都江東区常盤1-6-3
電話:03・3631・1448
開館時間:9時30分~17時(最終入館16時30分)
休館日:第2・第4月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始(臨時休館あり)
入館料:200円
交通:都営新宿線・大江戸線森下駅より徒歩約7分

「都会にいても、日々の暮らしの中で季節を見つけることがあります。街路樹の葉の色などに、ふと、季節の移ろいを感じますよね」
 
そういってフリーアナウンサーの草野満代さんは、東京・江東区芭蕉記念館の庭園の樹々を愛おしそうに見つめる。植えられているのは、主に松尾芭蕉が句に詠み込んだ約30種もの植物だ。

俳聖の町、深川をゆく

テレビ番組の仕事をきっかけに俳句を始めたという草野さん。

「どうしたものかと思い、まずは俳句に関する本をいくつか取り寄せました。読んでみると、これが実におもしろいんですね。今では生活の様々な場面で季語を意識するようになりました」

夏の朝 蕉像つつむ 焙煎香──草野満代

隅田川テラス (2)

芭蕉が草庵を結んだ隅田川のほとりを散策

隅田川テラス沿いに掲げられているモニュメント「旅路 奥のほそみち」には、芭蕉の紀行文や句がしたためられている。

隅田川の両岸に設けられた遊歩道を兼ねた親水テラス。芭蕉記念館の裏木戸を出て、遊歩道から河川敷に下りてすぐ。
東京都江東区常盤1丁目4付近

芭蕉庵史跡展望庭園 (3)

隅田川で月待ちをする芭蕉像に逢う

隅田川と小名木川の合流地点に位置するため、川面の面積が広く、古くから月の名所とされた。庭園内の芭蕉像も月の出を待つ姿だ。芭蕉像は17時になると自動で隅田川河口方面に体の向きを変える。

東京都江東区常盤1-1-3
電話:03・3631・1448
開園時間:9時15分~16時30分
休園日:芭蕉記念館に準ずる
入場料:無料
交通:芭蕉記念館より徒歩約3分

 
そんな草野さんとともに、芭蕉が14年を過ごした深川を散策。芭蕉の面影を探しながら、今の深川を楽しむ小さな吟行だ。

松尾芭蕉(1644~94)は延宝8年(1680)、江戸日本橋から深川の草庵に居を移した。当時の深川は江戸の外れ。わずか37歳で俳諧宗匠の名を捨て、この地で隠遁生活を始めた。

芭蕉記念館で芭蕉ゆかりの資料などを鑑賞した後、隅田川沿いの隅田川テラスを200mほど歩いて小名木川が隅田川に合流する地点にある芭蕉庵史跡展望庭園を訪ねた。芭蕉庵はこの辺りにあったのではないかといわれている。

芭蕉の俳諧紀行『おくのほそ道』で紹介されている山寺(山形県)の参道を思わせる階段を上ると、芭蕉庵の前にあったという魚の養殖池(古池)を模した水場などがあり、芭蕉坐像が置かれている。

「杖を持っている印象があるので、芭蕉は高齢かと思っていました。実際には、深川移住が37歳、深川から『おくのほそ道』の旅に出発したのが46歳だったんですね」

俳聖の像を見上げながら、草野さんがいう。

芭蕉像が見つめる隅田川は、大小のビルで囲まれ、庭園に隣接する焙煎場からはコーヒーのよい香りが漂ってくる。どうやら一句浮かんだ様子の草野さんが、手元のメモ帳にペンを走らせる。

立ち寄り処

割烹 みや古

心身に沁みる深川郷土の味

大正13年に天ぷら屋として創業。文人が集った江戸時代の深川を思わせる店の佇まいだ。あさり入り深川飯しは2代目の頃から提供。
貝入り味噌汁のぶっかけ飯だった深川の郷土料理を、あさりの旨みが染みた深川飯として提供。吸い物、漬物、小鉢ふたつ付きの「深川めしセット」は1760円。深川めしの名店。

東京都江東区常盤2-7-1
電話:03・3633・0385
営業時間:11時30分~14時、16時30分~20時30分
定休日:月曜(祝日の場合は営業することもある) 60席。
交通:都営新宿線・大江戸線森下駅より徒歩約5分

深川散策には地下鉄森下駅からが便利だ。芭蕉記念館へは徒歩約7分。そこから芭蕉稲荷神社や芭蕉庵史跡展望庭園へは徒歩約3分。地下鉄清澄白河駅利用の場合は徒歩約9分。

取材・文/平松温子 撮影/安田仁志 ヘアメイク/土橋大輔 地図製作/もりそん
※この記事は『サライ』本誌2022年8月号より転載しました。

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