「言葉の天才」と呼ばれた永六輔さん。その「言葉」によって、仕事や人生が激変した著名人は数知れない。永さんと長く親交があったさだまさしさんと孫・永 拓実さんが、「人生の今、この瞬間を有意義に生きるヒント」をまとめた文庫『永六輔 大遺言』から、今を生きるヒントになる言葉をご紹介します。

文/永拓実

世界的和太鼓集団「鼓童」誕生のエピソード

旅好きの祖父が足繁く訪れていた場所の一つに、新潟県の佐渡島があります。

1970年4月、当時祖父がパーソナリティを務めていたラジオ番組には、受験に失敗した若者たちから「大学に落ちて生きる望みを失った」という主旨のハガキが、多数寄せられたことがありました。それに対し祖父は「生きる望みを失ったなんて簡単に言うもんじゃない。佐渡の知人と島おこしを始めるから、君たちも一緒に働き、一緒に太鼓を叩こうではないか」と、彼らに佐渡へ来ることを勧め、島おこしのイベント開催を呼びかけたそうです。

すると放送後、63通の問い合わせと申し込みの手紙が届き、その夏、多くの若者が佐渡に集まることになります。そして彼らはイベントの活気に魅了され、佐渡に残って和太鼓集団を結成し、現在に至るまで世界的和太鼓集団「鼓童」として活動が続いています。

祖父が亡くなってから、僕は15年ぶりに佐渡を訪れました。5歳のとき、祖父と訪れて以来のことです。そして、鼓童の練習施設を訪ねると、祖父がメンバーに宛てた仏様のイラスト付きの手紙が、額縁に入れて大切に飾られているのを発見しました。

〈人間 自分で変えられない時は 変えて貰えばいいのです。まだまだ変われます。〉

手紙のこの言葉について、和太鼓集団の創設メンバー大井良明さんはこう語ります。大井さんも、浪人中に祖父の番組を聴いていて、イベント参加を決めたそうです。

「うまくいかないとき、自分でいくら考え込んだって、どうにもならないときはある。そんなときは自分の足を動かして、人に触れ、ぶつかることが大事。私たちは永さんの言葉をそう読み解きました。永さんが僕たちのような人生に行き詰まっていた若者に、佐渡へ来ることを勧めたのも、そういう考え方をしたからかもしれない」

何かうまくいかないとき、殻に閉じこもりたいときこそ、人と触れ合う。そうして刺激を得ることで力が漲り、状況が打開される。何かうまくいかないときはそう信じて、殻を破ることに挑戦してみたいと思います。

永六輔の今を生きる言葉

自分で変えられないときは変えてもらえばいい
人間はまだまだ変われる

* * *

永六輔さんの7回忌の節目に、永さんの背中を追い続けてきたさだまさしさんと永拓実さんが『永六輔 大遺言』を刊行する。

『永六輔 大遺言』(さだまさし、永拓実 著)
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さだまさし
長崎県長崎市生まれ。1972年にフォークデュオ「グレープ」を結成し、1973年デビュー。1976年ソロデビュー。「雨やどり」「秋桜」「関白宣言」「北の国から」など数々の国民的ヒットを生み出す。2001年、小説『精霊流し』を発表。以降も『解夏』『眉山』『かすてぃら』『風に立つライオン』『ちゃんぽん食べたかっ!』などを執筆し、多くがベストセラーとなり、映像化されている。2015年、「風に立つライオン基金」を設立し、被災地支援事業などを行なう。

永拓実(えい・たくみ)
1996年、東京都生まれ。祖父・永六輔の影響で創作や執筆活動に興味を持つようになる。東京大学在学中に、亡き祖父の足跡を一年掛けて辿り、『大遺言』を執筆。現在はクリエイターエージェント会社に勤務し、小説やマンガの編集・制作を担当している。国内外を一人旅するなどして地域文化に触れ、2016年、インドでの異文化体験をまとめた作品がJTB交流文化賞最優秀賞を受賞。母は元フジテレビアナウンサーの永麻理。

 

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