「言葉の天才」と呼ばれた永六輔さん。その「言葉」によって、仕事や人生が激変した著名人は数知れない。永さんと長く親交があったさだまさしさんと孫・永 拓実さんが、「人生の今、この瞬間を有意義に生きるヒント」をまとめた文庫『永六輔 大遺言』から、今を生きるヒントになる言葉をご紹介します。

文/永拓実

好奇心を持って日常を生きる

テレビ業界を退きラジオに専念するようになってから、祖父は一年のうち300日以上も、旅をしていました。土曜日の放送が終わると旅に出て、そこで見聞きしたものを次の土曜日に話す。

祖父は旅をすることの重要性を頻繁に語っていますが、それは祖父のような特殊な仕事柄できたことであって、普通は旅をしたくてもそう頻繁にできないのが現実です。ただ祖父は、ラジオに専念するようになる前も、また、体を悪くして旅の機会が減った後も、「日常生活で旅をする」ことを続けていました。

永家の中には、「タカオくん時間」という言葉があります。たとえば19時にレストランで待ち合わせのときは、祖父は必ず30分前に着いて待っています。だから僕たちも「タカオくん時間で18時半だから」と言って早めに行きます。そして食事が始まるやいなや、祖父は早くも次のことをこう切り出します。

「来るときに新しいお店を見つけたから帰りに寄ろう」

せっかちな人だとばかり思っていましたが、どうやらそうじゃないらしいのです。約束の1時間前には家を出て、周辺を散歩し、30分前に店に入って散歩で得た「気づき」をメモ帳にまとめる。祖父はそれを習慣としていたのです。

自身が愛した「歩くこと」については、こんな言葉を遺しています。

“歩くことも旅です。いろんな目を持って歩くこと。たとえば新緑の季節であれば、どうしても新緑ばかりに目がいってしまって、路傍の草花を見落としてしまいます。そこで、「今日は地面の草花を見る日」と意識的にテーマを決めて歩く。同じ散歩道でも、何通りもの楽しみ方があるんです”

食事が始まってからも、箸袋に書いてある店名を見てあれこれ考え、由来や意味がわからないと店員に聞き、それをまたメモ帳に書き込む。祖父の好奇心というアンテナは、いつも張られたままです。

“曲がったことのない角を曲がったら、旅が始まります”

これは通算1万2638回、49年間にわたって放送されたTBSラジオ『永六輔の誰かとどこかで』が、番組のテーマとした言葉です。

祖父が何歳になっても若々しかった理由がわかった気がします。曲がったことのない角を曲がる。話しかけたことのない人に話しかける。目をつけないところに目をつける。

旅先では誰もが目を輝かせて生き生きとしますが、旅行に出かけることだけが旅ではない、ということを教えてくれました。

永六輔の今を生きる言葉

歩くことも旅
いろんな目を持って歩けば、様々な「気づき」がある

* * *

永六輔さんの7回忌の節目に、永さんの背中を追い続けてきたさだまさしさんと永拓実さんが『永六輔 大遺言』を刊行する。

『永六輔 大遺言』(さだまさし、永拓実 著)
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さだまさし
長崎県長崎市生まれ。1972年にフォークデュオ「グレープ」を結成し、1973年デビュー。1976年ソロデビュー。「雨やどり」「秋桜」「関白宣言」「北の国から」など数々の国民的ヒットを生み出す。2001年、小説『精霊流し』を発表。以降も『解夏』『眉山』『かすてぃら』『風に立つライオン』『ちゃんぽん食べたかっ!』などを執筆し、多くがベストセラーとなり、映像化されている。2015年、「風に立つライオン基金」を設立し、被災地支援事業などを行なう。

永拓実(えい・たくみ)
1996年、東京都生まれ。祖父・永六輔の影響で創作や執筆活動に興味を持つようになる。東京大学在学中に、亡き祖父の足跡を一年掛けて辿り、『大遺言』を執筆。現在はクリエイターエージェント会社に勤務し、小説やマンガの編集・制作を担当している。国内外を一人旅するなどして地域文化に触れ、2016年、インドでの異文化体験をまとめた作品がJTB交流文化賞最優秀賞を受賞。母は元フジテレビアナウンサーの永麻理。

 

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