パリを訪れた渋沢栄一(演・吉沢亮)にとって、見るもの全てが新しく、衝撃的。

まるで現地ロケをしたかのような映像が流れた『青天を衝け』のパリ編を語りつくします。

* * *

ライターI(以下I): 第22話ではパリ万国博覧会が描かれました。

編集者A(以下A):1980年の大河ドラマ『獅子の時代』は、万国博覧会参加のためにリヨン駅に降り立った徳川昭武(演・中村幸二/中村橋之助)一行の姿から物語が始まりました。〈今から113年前、このパリのリヨン駅に20数人の日本の武士が降りた。15代将軍徳川慶喜の弟、昭武に随行する幕府派遣の一行である〉というナレーション。今でも当時のことが思い出されます(笑)。

I:子どものころ見た大河ドラマの記憶って強烈に残る人が多いっていいますからね。『獅子の時代』では、3週間くらいパリでロケをしたんですよね。『青天を衝け』でもコロナ禍がなければ現地ロケの可能性があったようですが、遜色ない映像に驚きました。技術の進歩はすごいですね。

A:渋沢(演・吉沢亮)が船内で初めてパンを食べるシーンで「はなはだ美味じゃ」と感動しているシーンを見てうらやましくなりました(笑)。まったく未知の食べ物を口にする機会は、現代ではなかなかないですから。

I:そういうふうにあのシーンを見たんですか(笑)。

A:パリでは、一行が蒸気機関などに驚く場面などが描かれました。脚本のテンポが絶妙なので、すごく面白かったですし、渋沢が狂言回し的な役回りなのも微笑ましく感じました。ただ、敢えて逆張りっぽい話をすると、幕府一行がパリの文物に驚きすぎかなって印象も持ちました。

I:確かに薩摩の五代才助(演・ディーン・フジオカ)がすでに断髪姿で先進的な印象だったのと対照的ではありましたね。

A:これは今回に限ったことではないのですが、幕末を描写するときに、薩長=先進的、幕府=旧態依然 という見方をするのはそろそろ改めた方がいいのではとも感じています。小栗上野介(演・武田真治)の横須賀造船所や江川英龍の韮山反射炉、幕府海軍の存在など、薩長以上に先進的な部分もあったわけです。すでに万延元年には小栗らがアメリカに渡っていて、工業発展を目の当たりにしています。もちろん近代的なホテルも体験済み。そうした情報は幕府内で共有されていたと思いますし、パリでは日本の代表という気概を持って、常に堂々たる振舞いだったといいます。

I:なるほど。

A:『獅子の時代』の大河ドラマストーリーには、脚本をやられた山田太一さん、作家の城山三郎さん、うめぼし博士と呼ばれた樋口清之先生とNHKプロデューサーの豪華な座談会が掲載されていますが、城山さんが「渋沢は西洋が何であるかを知らないでボーンと送り出された人間ですが、かれは好奇心のかたまりだから、ほんとうに目をこぼれんばかりに大きくして、見られていることよりみることの方でいっぱいだったと思います」と語っていますし、樋口清之先生も「向うの(フランスの)市街図は銅版画で日本人は知っていましたね。全然予備知識がなく初めてパリを見たのではなくて、あのときはナポレオン三世の都市計画が完成していた最中ですが、その様子は知っていたと思います」とあります。

I:なんだか、幕府推しみたいですが、保守的な大奥の存在や、多くの藩が財政的に疲弊していたことを考えると、やはり幕府のままでよかったのだろうか、とは思います。

A:すべての歴史の事象には、必ず光と影があります。見る人の立ち位置によって見え方が変わってきますから、歴史を一面的にみるのはもったいないですよ……。と、なんだかごちゃごちゃいいましたが、実際に視聴しているときは、面白いなあと思って見ています。

頑張った14歳の徳川昭武

ニュースペーパーで日本がどのように世界で見られているかを知る栄一。

I:慶喜(演・草彅剛)が外国公使らと会談する場面がありましたが、その情報が「ニュースペーパー」でフランスにいる渋沢らに伝わりました。時代は急速に動いている感じが伝わってきました。私は、慶喜と外国公使の会談を報じた『イラストレイテッド ロンドン ニュース』を見たことがありますが、慶喜の姿がリアルに描かれていて驚きました。

A:そういえば、イギリスに留学していた伊藤博文や井上馨も英米仏蘭の連合国と長州藩が一触即発だという新聞報道を見て帰国したといいますもんね。さて、渋沢が、傷痍軍人の治療を行なう廃兵院を見て感銘を受けているシーンがありました。渋沢は明治になってから、満足に治療を受けられない人のために設立された養育院の運営に終生携わります。ゆかりの東京都板橋区には渋沢栄一晩年の姿の銅像がありますね。近年塗り替えられたばかりです。

I:Aさんのご近所ですもんね(笑)。フランスでいろいろなことを学んできたんですね。〈言葉も通じず、品々を見定める目も考える頭すらねえ。夢の中にいるみてぇだ〉といっていましたね。好奇心旺盛だったという渋沢の気概をよく表現したセリフだなあと感銘を受けました。

A:さっきの食べ物の話と同じですが、〈夢の中にいるみてぇだ〉っていう感覚はなかなか現代では味わえないですよね。やっぱりうらやましいです。でも、廃兵院の場面が、後年の養育院につながるなら、舞踏会に参加しているパリジェンヌを見て〈雪のような、玉のような……〉と見とれるシーンがありましたが、これも後々つながってくるのかなって感じながら見てました。

I:後年、艶福家としても知られる渋沢さんにつながるっていうことですか!?

A:はい。こっそり注目しています(笑)。ところで、第22話を見て改めて、渋沢栄一という人はつくづく運のいい人なんだと思いました。渋沢をパリ行きの随員にした人選も慶喜直々のものだったといいますし。渋沢本人が優秀だったということもあるのでしょうが、見出してくれた人(慶喜)がいた、というのは本当にラッキーですね。

I:渋沢は慶喜の伝記の編纂に注力するなど、終生慶喜の顕彰に尽くしました。慶喜から恩を受けたという意識が強かったのでしょうね。こういう関係、うらやましいです。

A:ほんとうですね。最後にもうひとつ。徳川昭武(演・板垣李光人)はこのとき14歳で、今の中学生の年齢でした。よく大役をこなしたものだと思いますが、劇中では空気を読めない水戸藩士として描かれていた井坂泉太郎(演・林雄大)ら小姓たちの功績も大きかったと思います。

I:これも光と影ですかね。井坂は維新後も終生水戸家に仕えたといいます。一途な人だったのでしょう。

昭武(演・板垣李光人)、14歳。日本のプリンスとして品性があり、かつ気丈な姿を見せた。

●大河ドラマ『青天を衝け』は、毎週日曜日8時~、NHK総合ほかで放送中。詳細、見逃し配信の情報はこちら→ https://www.nhk.jp/p/seiten/

●編集者A:月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』を担当。かつて数年担当した『逆説の日本史』の取材で全国各地の幕末史跡を取材。函館「碧血碑」に特別な思いを抱く。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。幕末取材では、古高俊太郎を拷問したという旧前川邸の取材や、旧幕軍の最期の足跡を辿り、函館の五稜郭や江差の咸臨丸の取材も行なっている。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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