日本経済の父といわれる渋沢栄一を主人公に据えた大河ドラマ『青天を衝け』。渋沢が青春時代を送った幕末の動乱期には、日本各地で、各々の思想を掲げた人々が立ち上がろうとしていた。
徳川将軍家に次ぐ地位の御三家のひとつ水戸徳川家に仕えた武田耕雲斎もまた、烈公と称えられた主君の徳川斉昭に従って尊王攘夷を唱える武士のひとりであった。ただ、過激な思想は危ういと考え、行き過ぎた攘夷を訴える若者たちをいさめる冷静な側面も持ち合わせていた。
そんな耕雲斎は、自身がいさめてきた過激派の急先鋒ともいえる水戸藩の攘夷派が結成した天狗党の首領となる。
『青天を衝け』で武田耕雲斎を演じるのは、津田寛治さん。2009年の『天地人』(大谷吉嗣役)、2015年『花燃ゆ』(松島剛蔵役)、2018年『西郷どん』(松平春嶽役)にも出演し、すっかり大河ドラマの常連になっている。今回の武田耕雲斎役について話を伺った。
前回出演した大河ドラマ『西郷どん』での越前藩主松平春嶽役をはじめ、幕末を舞台とする作品に多く出演してきた津田さんだが、『青天を衝け』では、少し違った角度で同じ時代をとらえている。
「主人公の渋沢栄一が農民出身というのもあって、今回は幕末を農民目線で描いた部分もあると思います。農民達の間でも尊攘派や開国派があり、そういった人たちが日本の事を我が事のように熱く考えていたというのは、新しい発見でしたね」
耕雲斎を演じるにあたって、リサーチを重ねたという津田さん。
「天狗党が1000人近くの兵隊を引き連れて筑波山から上洛を試みたとき、行く先々の戦で際立っていたのは、農民出身の兵士たちの活躍でした。そして、千もの兵の宿を用意したり、食べ物を調達したりしていたのは、街道沿いで商いをしている町民たちだったのです」
了読した吉村昭著『天狗争乱』には、武士たち以上に逞しく生きる農民や町民の姿が描かれていたという。
「それだけではなく、彼らは天狗党の軍資金まで用立てていたのでした。それも言われて無理やりではなく、尊攘派の町民たちが自らお金を出したケースもあったのです。天狗党が、想像を絶する険しい道のりを乗り越えて敦賀まで辿り着いたのも、そういった市民の力が大きかったと思います」
歴史の表舞台には登場しない多くの人々が天狗党を支え、押し上げていたことに思いを馳せる津田さん。こうした背景の中で、ドラマの主人公である渋沢栄一(演・吉沢亮)について津田さんはこう分析する。
「大政奉還がなされた後、今までのように武から武に権力が移るのを止めるため、一矢を放った一人が渋沢栄一だったのだと思います」
【王道の武士・武田耕雲斎。次ページに続きます】